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美術の散歩道

第12回「丸い画面枠の額縁」

今月も「変わった額縁」の話をします。

今回取り上げるのは「丸い画面枠の額縁」です。

これは額縁の画面枠が円形や楕円形、アーチ形などをした額縁のことです。

四角と円を比べたら、皆さんもすぐにわかると思いますが、
「丸い形」には何か優美で、夢想的な印象があります。

四角い形の上部だけを丸くしたアーチ形にその傾向がよく見てとれます。

また円は完璧な形ですから、完結した空間感や、
時には宇宙的なスケール感も感じさせてくれます。

楕円形はその中間的な感じで、円形よりも柔軟で、甘美な印象です。

いずれにせよ私の絵画世界には合っているので、
長年「丸い画面枠の額縁」に魅せられてきました。

西洋絵画の世界で円形の画面枠の額縁が出てくるのは、イタリア・ルネサンスにおいてです。

当時は円形画のことを「トンド」と呼んでいました。

写真1 ラファエロの円形聖母子画

ボッティチェリやラファエロなどが好んで使っています。(写真1参照)

そして彼らの絵に共通するのが、優美さであり、夢想性であることから、
彼らも「丸い画面枠の額縁」の特性をよく理解していたのでしょう。

私の場合、円形画面を使う時には、できるだけ円であることを強調するような構図を考えます。

写真2《接吻》

例えば《接吻》という絵の場合は、画面の円形、満月の円形、そして羊の丸いシルエットがリフレインするような工夫をしています。(写真2参照)

写真3《至福》

また《至福》という絵では、円形の画面いっぱいに丸くなった猫を納めることで、普通の絵に見られる「地と図の関係」をなくして、図のみで画面を構成するという試みを行っています。(写真3参照)

このように四角い画面ではできないことをやるのが、楽しいのです。

しかしこれらの円形額はデザインがシンプルなので使いやすいのですが、次に紹介するようなものは、そう簡単には使いこなせません。

写真4《雲海のランデ・ブー》

《雲海のランデ・ブー》の額はイタリア製で、元々は鏡の縁だったようです。(写真4参照)

この額の主張は相当なものですから、
月による円形のリフレイン効果と、
二匹の羊がジャンプして逆ハの字に広がっていく運動感を
額縁周囲の放射状の装飾に合わせてみました。
しかし完全にしっくりいっているわけではありません。

これはまた別の機会に再挑戦してみる予定です。

厄介なのはこの類の額が他に2点もあることです。(写真5・6参照)

写真5
写真6

生きている内に使いこなせるといいのですが(笑)

とっておきの円形額も紹介しておきましょう。

写真7

この額は神田の草土舎で見つけたものです。
イタリア製の手彫りの装飾額で、その優美なデザインに魅せられて買いました。
いつかこの額にあったロマンチックな絵が描きたいものです。(写真7参照)

楕円形の画面枠は円形の変形とも言えますが、形が歪んだ分、空間的な広がりも暗示しやすいので、
楕円形を横にして使う場合には水平線を入れたり、縦にして使う場合は背の高い樹を入れたりします。

また楕円形は三日月や虹のアーチとも親和性が高いので、
それらを加えることもよくあります。(写真8・9参照)

写真8《深い眠り》
写真9《慈愛》

この2点を比べても、同じ楕円形枠でも縦と横とでは大きく印象が変わることがわかると思います。

私が持っている楕円形画面枠の額縁で一番大きなものは、
《二つの世界》という絵を入れた額です。(写真10参照)

写真10《二つの世界》

これも草土舎で手に入れたもので、中のキャンバスはほぼ M20号のサイズです。

ただし、この絵がピッタリという感じはしていないので、また新しいものを描くかもしれません。

もう一点、お気に入りの楕円形額があります。

それは画面が 10 × 15 センチという小さなものですが、なんともエレガントなデザインが魅力です。

写真11《猫と戯れる女》

手元に置いておきたかったので、妻と飼い猫のムクが戯れている場面を描いて、妻の誕生日プレゼントにしました。(写真11参照)

最後は「アーチ形の画面枠」についてです。

アーチ形は四角い画面の上部を丸くしたものなので、見方によっては円形と正方形を上下で合体させたようにも見えます。

写真12《願い》

円形も正方形も形としての完成度や主張が相当強いので、
「アーチ形の画面枠」には優美さとともに力強さも備わっています。
夢想的であっても、強い構図が求められるのはそのためです。(写真12参照)

私が所有するこの型の額縁で最大のものは、
M20号の変形キャンバスが入る額で、現在まで《幽明》という絵が入っています。(写真13参照)

写真13《幽明》

この絵は額ごと見てもらいたい絵の典型なので、作品集にも額に入れた状態で収録されていますし、
珍しい型で大きいので、美術館での展覧会などにはできるだけ出すようにしています。

一方小型でも存在感があるのが、二連式のアーチ額です。

写真14《牧歌》

これもイタリア製で、16 × 11 センチの二つの小画面をどう構成するかで、頭を悩ませましたが、
「昼と夜」の組み合わせで「動と静」を対照させた試みは成功しました。(写真14参照)

このように額縁の形から触発されて絵の構想が思い浮かぶことはよくあるので、
まだ使っていない宮井氏作のアーチ形画面枠の額縁からも、どんな絵が生まれるのか楽しみです。
(写真15参照)

写真15
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