
第89回『 マイ・コレクション/ 動物根付の世界 その8 動物の組み合わせ根付・親子編』
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10月になりました。
9月は日本各地が繰り返される水害に悩まされましたが、気温はあまり高くならず、9月の猛暑を警戒していた身としては正直ほっとした気分です。最近は虫たちの合唱を聴く機会も多く、秋だなという感慨にも浸れています。
そして9月は一陽展の審査の季節でもあります。私は事情があって今年は参加できませんでしたが、初審査を体験した妹尾君から詳細な審査報告を受けたので、審査風景が目に浮かぶほどです。陽のあたる岡のメンバーでは、赤木君が野間仁根賞を受賞しました。「野間仁根賞」は一陽会の創立メンバー三人を顕彰する賞のひとつで、その年の会員作品の中で特に優秀と認められる作品に贈られる賞です。妹尾君は会員賞を初受賞。会員賞もその年の会員作品の中から優秀な作品数点に与えられる賞なので、会員たちの目標になっています。妹尾君、久ぶりの受賞で目立ちました。
大阪芸大関係では初出品の福田さんが昨年のイリナさんに続いて青麦賞を受賞しました。青麦賞は一般部門の最高賞・一陽賞に次ぐ賞で、福田さん、力のあるところを見せてくれました。大きな賞のみの紹介でしたが、今年も一陽会に若い新しい風を吹き込めたことに私も満足しています。
さて1か月の準備期間を経て、「動物根付の世界」の後半がスタートです。
後半の内容は単体の根付ではなく、複数の動物の組み合わせ根付です。
動物が組み合わさるとそこには何らかの関係性が生まれます。例えば親子関係であったり、夫婦関係や兄弟関係であったり、ライバル関係や敵対関係であったりという具合です。このような物語性は見る人の想像力を刺激するので、作品への思い入れが生まれやすくなりますし、作品の印象度も高まります。しかも「掌の小宇宙」と言われる約3.5㎝の小さな空間に2体から3体の動物を彫るのですから、当然高い技術が要求されます。
例えば「親子」がテーマの場合だと、必ず子の方は親の三分の二から二分の一程度の大きさになります。このサイズの彫刻を彫るのは至難の業です。ところがその難題に対し、どの作品からも作者が楽しんで造っている様子が伝わってきて、その姿勢とモチベーションには驚くばかりです。
後半はこの「職人技」とも言える高い技術にも注目して、数多くの傑作を紹介していきたいと思います。皆さんも大いに楽しんでください。
最初に紹介するのは親子編で、動物はウサギです(写真1~5)。
母ウサギに子ウサギが身を摺り寄せています。母も子も表情がとても穏やかで、良い親子関係を想像させる造形になっています。子ウサギの顔を上に向けたポーズが何とも愛らしいですね。この根付の作者は母と子の顔を向き合わせるのではなく、あえて別々の方向に向けることで愛情を表すことに成功しています。母ウサギは右足を前に出していますから、移動しようとしているのかもしれません。その動きに対し子ウサギが「行かないでよ」と甘えているのかもしれません。彫刻として見ても立体感や量感がよく表現されていて、安心して見られる優れモノです。
次もウサギの親子ですが、こちらは対照的に激しい動きを示しています。(写真6~10)
その躍動的な姿はまさにバロック的です。必死の形相で疾走する親ウサギに、これまた必死の形相で食らいつく子ウサギ。何かあったのでしょうか。きっとウサギの親子を獲物と狙う敵から逃げている場面かもしれません。その様子があまりにもリアルに再現されていることに驚くばかりです。色々な角度から見ても絵になっていて、作者の高い技量が窺える名作です。現代根付にこのような作品があるのかは不勉強な私には分かりませんが、いずれにしろこのような作品が示す中国製根付のレベルの高さは認めなければならないでしょう。
次はネズミの親子です。(写真11~15)
こちらは子ネズミが母ネズミに話を聞いてもらっているような微笑ましい情景です。母ネズミの首や耳の角度、目の表情から、子ネズミの話を真剣に聞いている様子が伝わってきます。面白いのは母ネズミが右後ろ脚を子ネズミの体にちょこんとかけているところです。こんな仕草が加わることで、この作品は母ネズミの深い愛情を感じさせるものになっているのです。子ネズミをよく見ると、丸く輪にした自分の尻尾の上に乗っていることに気付きます。これは単体の時に紹介した「丸ネズミ」の造形の応用です。こんなところにも作者の造形を楽しむ余裕が感じられます。
次はカエルの親子です。(写真16~21)
哺乳類の動物たちと違い、両生類のカエルには独特の造形の魅力があります。一口で言えば「ユーモラスな姿態」です。この根付の親子もその魅力を遺憾なく発揮しています。場面は子ガエルが親ガエルに甘えてすがっているところでしょうか。造形的にはカエルの体の各所に見られる三角形を巧みに組み合わせて、カエルらしさを表現しています。ポイントは大きな眼で、この根付に生き生きとした生命感を与えています。正面から見た親ガエルの大きな口も、全体をきりっと引き締めています。
次はイヌの親子です。(写真22~26)
私のコレクションではイヌの根付は珍しいので貴重な一品です。ただしイヌに関しては詳しくないので、犬種までは分かりません。親犬の背中に子犬が必死でよじ登ろうとしている場面です。子犬のあどけない表情と親犬の泰然とした表情との対比がこの作品のポイントでしょう。そしてどちらも丸っこい体型をしているので、そのふたつが重なるとより愛らしく、見る側もほのぼのとした幸せな気分になれるのです。イヌはペットとしてネコと共に最も身近な動物のひとつですが、このような親子の情景に接すると、私たち人間は動物たちを「家族」として見る視点に欠けていることに気付かされます。
次はイノシシの親子です。子の体は完全に親の背中に乗っています。(写真27~31)
イノシシは頭が大きいので根付にはしやすい動物のひとつです。また、ただ頭が大きいだけでなく、特徴のある鼻づらや鋭い牙など魅力的なパーツを持っています。近年は街中に現れて人間や作物などに危害を加えることも多く、すっかり害獣になってしまいましたが、このような親子の情景を見ると、イノシシの世界にも愛があることがよく分かり複雑な心境になります。この根付では親子が同じ方向を向き相似形の体が重なっているので、より一体感が強まっている感じです。体の動きも一見静かに見えますが、底から見ると意外にも激しいムーブマン(動勢)が秘められていることに気付き、驚きます。今回、最後に紹介するのは空想上の動物・獅子の親子です。(写真32~36)
獅子はいかつい顔をして近寄りがたいイメージですが、私が子どもの頃は正月に各家庭を訪れて、獅子舞を披露してくれました。大きな口を空けて子どもの頭にがぶりと嚙みつくので、怖くて泣いてしまう子どももいましたが、それは子どもに取りついた邪気を退治する一種の儀式で、縁起の良いパフォーマンスだったのです。現存する動物ではライオンが元のイメージと言われていますが、獅子の造形にはユーモラスな要素が多く、怖いというよりは親しみやすい印象です。この根付でも親子そろってこちらを威嚇していますが、怖いという感じはしません。それよりも親の真似をして威嚇のポーズをとる獅子の子に健気さを感じて、微笑んでしまいます。獅子の子の必死で親獅子の背中にしがみつくポーズが可愛いですね。底から見ると、親獅子の頑丈そうな四肢がしっかり造形されているのが分かります。
今回はここまでです。いかがでしたか?
動物が組み合わさることで様々な変化や効果が生まれることに気付いていただけたでしょうか。そこには単体では表現できない豊かな世界が展開されていました。それを生み出す職人たちの技術にも驚かされました。
次回は「親子」以外の組み合わせを取り上げる予定です。お楽しみに!




































