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「温かい場所」

Gallery 暦 -神無月- 2018

《温かい場所》

 

画像をクリックするとモニタのサイズに合わせて全体像が表示されます。

 

《温かい場所・部分》

 

今月の絵は、
『フェルメールの絵に忍びこんだ猫たち』の新シリーズの一枚、
《温かい場所》です。

この作品は他の3点とともに、
10月13日から始まるギャラリー倉敷での個展に出品します。
『フェルメールの絵に忍びこんだ猫たち』は、
私の名画パロディの人気シリーズで、
最初は 40 × 20 ㎝の縦長の画面に、
フェルメールの絵の中から魅力的な窓辺の場面を切り取って、
そこに我が愛猫を忍びこませるという作を6点描きました。
これが好評だったので、
次は S100号 の大作を2点描き、
入選率4%という最難関のコンクール『小磯良平大賞展』に応募したところ、
入選と評価されたので自信を深めました。
自分の中ではこれでシリーズは完結と思っていたのですが、
その後窓辺とは別に
フェルメールの描く女性たちの衣装の描写にも魅力を感じるようになり、
新シリーズを始めることにしました。
今回のシリーズは、正方形の画面と女性の衣装と猫の気持ちがポイントです。

《温かい場所》の元絵は、フェルメールの初期の代表作《牛乳を注ぐ女》です。

実はこの作品、
10月5日から上野の森美術館で開催される『フェルメール展』に再来日します。

前回の来日では、フェルメールはこの作1点だけでしたが、
それでも多くの観客を動員しました。
今回は日本のフェルメール展史上最多の8点出品の中の1点ですが、
チラシの表側にこの絵の全図が大きく載せられていることからも、
やはり代表作なのだと再認識しました。

模写してみてこの絵のすごさがよくわかりました。
女性の衣装や卓上の静物の光と質感の描写には、
簡単には近づけませんでした。

最後は自分のできるところまでで筆を置きましたが、
時間をかけてじっくり模写したことで、
牛乳を注ぐ女性にも愛着が増し、
この女性を使った全く別の絵のアイディアも浮かびました。
それはとてもシュールでユーモラスなイメージです。
完成したら皆さんに是非見てもらいたいですね。

ところで《温かい場所》では、
牛乳を注ぐ女の顔がギリギリのところで切り取られています。
これは猫を主役にするための処置です。
絵の中に人間の顔があると、
見る人の眼はどうしても顔に集中します。
ところが顔を消すと、
色々な部分に眼が行くのです。

この絵でもその処置によって、
床の上にある四角いものとその上の何も無い空間に眼が行きました。
四角いものについてはそれが何なのかずっと謎でしたが、
ある時に読んだ解説文から、
行火(あんか)であることが判明していました。
つまり当時のオランダでは、
冬場に寒い台所で暖を取るための必需品だったのです。

ではフェルメールは何故その上の空間を空けたのでしょうか。
その謎かけに対する私流の答えは、
行火の上に猫を乗せてやることでした。
こうしてすっぽりと空いていた空間も適度に埋まり、
寒がりの我が愛猫ムクは気持ちよさそうに、
画面の中に永遠に収まることになったのです(笑)。

私が大学3年生だった頃の話ですが、
本屋で手に取ったファブリ名画全集の一冊に、眼が止まりました。
名前も聞いたことがなく、
作品もすべて初見でしたので、
最初は評価に戸惑いました。
しかし私好みの作品であることだけは直感しました。
描写力も構成力もあるし、
普通のようでいて、
強い個性も持っている。
しかも静謐でいて力強い。
そんな印象でした。

結局3度迷った挙句、
最後にはこの画集を買うことにしたのですが、
知らない画家の画集にわずか400円という対価を支払うかどうかを真剣に考えた想い出が、
今も強烈に残っています。

その画集に描かれていた画家名はヴェルメール、
英語表記はVERMEERです。
無名だった時代、
フェルメールも日本ではそのように呼ばれていたのです。

泉谷 淑夫

 

今月の作品のインスピレーションとなった絵はこちら。
フェルメール「牛乳を注ぐ女」

 

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