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第49回『猫のギャラリー』第5回 ゴロ太とモン太と、お他所の猫たち

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今回は岡山に移ってから飼い始めた第2世代の猫たちとその絵、
そして知人などから依頼された猫の絵を紹介していきます。

神奈川から岡山へ連れてきたタロー、ゴン、ジェフの3匹が白血病ウィルスに次々とかかり、
この世を去ってから少しの間、私たちは猫のいない生活をしていましたが、
知人から生まれたばかりの子猫をもらってくれないかと頼まれ、
初めて身元の知れた猫を飼うことになりました。

上粕屋で4匹の猫を飼っていた経験から、
猫は1匹よりも複数飼っていた方が、個性が分かって面白いと思っていたので、
写真で2匹の雄を選んで引き取ることにしました。

赤ちゃんを卒業したくらいの子猫だったので、最初はあまりの小ささに驚きました。
一目見た時からかわいくて、すぐに愛情が湧きました。

写真1 大きな部屋に戸惑う?ゴロ・モン


我が家に来たての頃の2匹は広い家に戸惑っているようにも見えました(写真1)
が、慣れてくると遊び相手がいるもので、家中を遊び場にして暴れまわりました。

そのせいで我が家のカーテンや腰掛の背もたれの布はたちまちボロボロになってしまいました。

この2匹に私たちはゴロ太とモン太という名前を付けましたが、
私が生活時間にゆとりができたせいもあって、とにかくたくさんの写真を撮りました。

この2匹は狭い円籠の中に入るのが大好きで、最初は一つの円籠を取り合っていましたが、
そのうち片方が入っていても、もう片方がおかまいなく強引に入って行くので(写真2)、
もうひとつ同じ様な円籠を用意してやりました。

写真2 小さな籠の中のゴロ・モン

最近「猫は液体である」という面白いキャッチコピーのCMが話題になっていますが、
本当に猫の体は柔らかく、見事に円形の中に納まるのです。(写真3)

写真3 それぞれの籠の中のゴロ・モン

そんな2匹が私たちを大いに笑わせてくれたのは、台所の出窓に置いたカメにちゃっかり入り込んだ光景でした。(写真4)

写真4 カメの中のゴロ・モン

円籠やカメの他にも、円形のごみ箱にもよく入りました。(写真5)

写真5 ごみ箱の中のゴロ太

そんな2匹でしたので、大きくなってからも大きい円籠を用意しておくと、いつの間にか仲良くその中に納まっていたものです。(写真6)

写真6 大きな籠の中のゴロ・モン

大きくなってからモン太の方は独特の座り方をするようになりました。私は「モン座り」と名付けましたが、まるで落語家が話しているようにも見えたり(写真7)、

写真7 モン座り1

偉そうな社長さんのようにも見えたりするので(写真8)、

写真8 モン座り2

このポーズの時は猫には思えなかったものです。

さてそんな2匹を描いた絵ですが、月と組み合わせた4点から紹介しましょう。

最初はゴロ太を描いた《月と猫》(写真9)です。

写真9《月と猫》2006

ゴロ太はシルエットがきれいでしたので、絵になる猫でした。
ここでも逆光にその美しいシルエットが浮かび上がっています。

一方のモン太は深みのある表情が特徴で、ミニアチュールの《夜の番人》でもその表情が生きるように、
正面から顔を捉える構図にしました。(写真10)

写真10《夜の番人》2010

3点目の《満月の舞台》は私のお気に入りの作だったので、個展で売れた後に再制作し、
今も我が家の2階のギャラリーに常設展示されています。

外に出してあげられなかった2匹を、
せめて絵の中だけでも外出させてあげたいという思いで描いた1枚で、
満月の夜、川岸の岩の上で涼んでいる様子を想像して描きました。(写真11)

写真11《満月の舞台》 2008

この絵はこちらに向かって飛び出すゴロ太の尻尾と、
こちらに顔を向けたモン太の瞑想的な表情(写真12)、

写真12《満月の舞台・部分》

そして満月の逆光の効果がポイントです。

最後はくつろぐゴロ太をモチーフにした《哲学者》です。

ゴロ太はとても大きな猫で、最盛期の体重は8㎏を超えていました。
いたずらばかりしていた子猫時代とは異なり、
大人になってからは悠然としたたたずまいが印象的でした。

特にモン太が謎の失踪を遂げてからは、1匹だけになりましたが、
動揺することもなく落ち着いていました。

後にムクがやって来て、ゴロ太にまとわりつきましたが、嫌なそぶりをするでもなく、
大らかに接していました。

そんなゴロ太を月夜の晩に岩の上にはべらせ、哲学者に見立てたのがこの絵です。(写真13)

写真13《哲学者》2009

次の絵は円い籠が大好きだったゴロ太を円形の額に収めた1枚です。

見たままの印象から、題名は《円満》としました。(写真14)
ゴロ太のしっかりした毛並みを味わってください。

写真14《円満》2008

円い籠はモン太も大好きでしたから、兄弟仲良く籠に収まっている姿も絵にしました。

籐の編み籠に窮屈に収まった2匹が、今にも眠りに堕ちようとしている場面です。
そこから題名は《まどろみの時空》としました。

背景の壁と雲の浮かぶ空をダブらせて、「時空」の感じを出してみました。
編み籠の精密な描写は、カラヴァッジョを意識しました。(写真15)

写真15《まどろみの時空》2007

締めの絵は、以前に『美術の散歩道』でも紹介したことのある
《世界一有名な婦人に抱かれた猫》です。(写真16)

写真16《世界一有名な婦人に抱かれた猫》2016

これは言うまでもなく、あの「世界一有名な絵」のパロディですが、
すごいのはゴロ太を抱いている婦人が誰であるかは、顔が描かれていなくても分かるという点です。
ここでもまだ名前は出していませんが、出さない方が面白いでしょう。

ここからは我が家の猫ではなく、お他所の猫たちの絵が登場します。
猫の絵は個展でも必ず発表していましたので、この頃から注文が舞い込むようになっていました。

最初はお隣の方で、飼い犬の絵も含めると注文で3点描いています。
ここでは猫の絵の2点を紹介します。

最初はスノーという真っ白な猫で、見るからに高級猫さんです。

私たちが飼うのはいつもその辺にいる猫ばかりですが、お隣さんは血統書付きのペットが専門です。
やはり高級な猫には高級な場所が似合うので、
かつて旅行したベルギーのホテルの部屋の洒落た窓辺を用意しました。
窓から覗くのはブリュッセルの街並みです。
空には気球を浮かべ、《夢窓》の雰囲気を強調しました。(写真17)

写真17《夢窓》2002

次の絵も注文主は同じ方ですが、今度はペコという名前の猫です。

こちらも高級猫さんなので、洋館の夕べの窓辺を用意しました。
窓には夕暮れの森が映り込み、残照の残る空にはやはり気球が飛んでいます。(写真18)

写真18《夕想》2003

もの思う時間帯なので、《夕想》という題名にしました。
《夢窓》との対象を楽しんでください。

次の絵は家内の友人からの注文画で、こちらはその辺にいる猫2匹です。

送られた写真を元に描いたのですが、選んだ2枚の写真から一つの場面が浮かびました。
それは貫禄のあるキジトラのベルが寝ている白猫のノラを守っているイメージです。
その結果、題名は《用心棒》となりました。

ちなみに絵の舞台は倉敷の美観地区にある建物の一隅です。(写真19)

写真19《用心棒》2009

次の注文画は横浜髙島屋の個展で絵を買ってくれた方からの依頼で、
『フェルメールの絵に忍び込んだ猫たち』のシリーズのように、
2匹の飼い猫をフェルメールの絵に入れてほしいという要望でしたので、
《地理学者》の窓辺を選びました。

写真20《地理学者の窓辺にて》2012

この2匹も高級猫さんで、いかにもノーブルな感じがします。
前出のスノーと同じ種類かもしれません。(写真20)

最後の注文画も横浜の古い顧客からの依頼で、自由に描いてよいという条件のもと、
送られてきた写真の2匹がタローとゴロ太に似ていたので、
彼らを思い出しながら、前出の《まどろみの時空》に似せた絵にしました。

2匹の入った円籠が今にも落ちそうな危うさがポイントです。(写真21)

写真21《仲良し》2014

お他所の猫の最後を飾るのは近所の方が飼っていたチロです。

チロは半ノラ生活をしていて、喧嘩で片目を失っていますが、とても人懐こい猫です。
私にもよくなついてくれて、抱っこしても逃げない猫でした。
風貌がどことなくチャゲに似ていたこともあり、そんな訳でお他所の猫であり、
注文もされていないにも関わらず描いた貴重な1枚なのです。

チロがお気に入りの場所でくつろいでいる姿を写真に撮り、描きました。(写真22)

写真22《塀の上の楽園》2018

人が入りにくい場所でひっそりと過ごす姿から《塀の上の楽園》という題名を付けました。

このように飼い猫に限らずたくさんの猫の絵を描いてきましたが、やはり猫は絵になるなという感想です。

次回はチャゲという私の良き相棒だった猫を紹介します。

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