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Gallery -弥生-《春を待つ道》

《春を待つ道》
《春を待つ道》

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「春を待つ道」

3月は別れの季節である。

卒業式で涙を流した人も多いだろうし、転居や転職で苦労した人もいるだろう。
そうした人間的ドラマとは別に、自然界でも大きな別れが毎年演じられる。
長かった冬に別れを告げ、ようやく春が訪れるのである。

しかし春の足取りは予想以上にゆるやかで、
その歩みは時にもどかしいほどである。
昔から「三寒四温」という言葉がこの季節に良く用いられる所以である。

私は長いこと花粉症と付き合っているので、3月はあまり好きではなかった。
くしゃみと鼻水の辛い思い出ばかりで、
桜の開花を心待ちにしていたという記憶もない。
しかし田園や里山に見られる春の気配に気づいてからは、
それまでとは異なる季節観が生まれた。
晩秋に自然の景観から色彩が失われて約三月、
水墨画のような世界にわずかではあるが、春の色彩が顔をのぞかせる。

それはあまりにも淡く、微妙な色調なので、見落としがちである。
しかし竹やぶの色は明らかに若返り、
木の芽も膨らんでほのかな赤みを見せてくれる。
これらが日を追うごとに明らかになっていく様は、
自然の生命力と宇宙の運行を確実に感じさせてくれる。

晩秋の紅葉のような派手さはないが、
早春には早春の美しさがあるのだと思い、
また世間的にあまり注目されていないことを思うと、
この季節がなおさら愛おしくなってくるのである。

《春を待つ道》はそんな気持ちが描かせた一枚かもしれない。

私の住む総社市の何でもない3月の田園風景である。

田んぼは一面冬模様で、いまだ春の気配は無い。
あくまで春を待ちわびる地表の表情である。
それは地味で華やかさからはほど遠い。
強いて言えば田んぼに散在する名残雪がこの風景の中の「華」なのかもしれない。

ポイントは少しうねった道にある。

この道のずっと先には霞がかかったような春の空がある。
近くばかりを見ていて気が重くなるときは、思い切り遠くを見るといい。

この絵の右端にも青くかすんだ山並みが発見できるように、
何か希望につながるようなものが見えるかもしれない。

春の訪れはもう少しである。

 
泉谷 淑夫

 

 

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