
第14回「変わった形の額縁」最終回
「変わった形の額縁」の話も今回が最終です。
ここまで長くお付き合いいただいた方々に、お礼を申し上げます。
やはり最後はとっておきの変形額を紹介してみたいと思います。
「とっておき」ということは、特に気に入っているので「大切に残してある」という意味と、使いこなすのが難しいので「いまだに残っている」という両方の意味があります。
プレート付き額縁
私が祭壇額とともに早くから気に入っていたものの一つに、「プレート付き額」というものがあります。


これは額縁の上部にエジプト風の装飾プレートが付いているものですが、それだけで強烈な“変わっている”感が醸し出されます。(写真1,2参照)
このプレートがあると、私の羊の世界にもとても馴染んで、絵と額の相乗効果で神秘感が増すのです。
今回実際に絵を入れた画像は紹介できませんが、皆さんに想像してもらえたら嬉しいです。
このタイプの額にさらに観音開きの扉が付いた「扉付き額」というものもあります。(写真3,4,5参照)



この額に最初に出会った時には、驚くとともにとても嬉しかった記憶があります。
扉を開いた時の絵との対面の感動を想像すると「よくぞここまだやってくれた」という感じです。
普段は扉を閉じておいて(鍵もかけられます!)、特別な時やお客さんが来た時だけ扉を開けるようにしたら、気分も高まるはず。
ただ使いこなすのは難しいです。
その理由は額内に作品が収まる位置が奥まっているので、画面の上部に影ができてしまうからです。
つまり画面上部には何かを描くことは避けなければなりません。
空などの空間で処理することが求められるのです。(写真6参照)

《選ばれし者》は月光に照らされた雲海上の子羊を逆光で描いたものですが、この額の構造にとても適した構図だと思います。
額面にプレートではなく顔が付いているものもあります。
顔は人間の体の一部ですが、他の部位とは比べものにならないくらいの強いアピール度があります。
ですからそれがあるだけでぐっと存在感が増します。(写真7参照)

逆に言えば、中にどんな絵を入れたらよいかが大変難しい額でもあります。
この顔が「天使」の場合は何となく温かく優しい感じの絵が合う気がするので、メルヘンチックな羊の世界を描きました。(写真8,9参照)


どちらの作品も羊の顔を正面から描いていないのは、額縁に顔があるので遠慮したのです。
つまり額縁と絵をトータルに見て判断しているわけです。
ちなみに《連樹》の方は、この額縁を手元に置いておきたいという気持ちが強かったので、結婚30周年の記念の絵としました。
私はどうも天使に弱いらしく、額縁に天使が付いていると欲しくなってしまいます。
知り合いの作家が個展をやった際に見た額縁がどうしても忘れられず、個展終了後作品が残っていることを確認したうえで、その額縁だけを譲ってもらう交渉をしました。
この額の右側だけに天使を付けたセンスに惹かれたとも言えます。(写真10,11参照)


大変失礼な申し出にも関わらず、その方は快くその額縁を手放すことに同意してくれました。
そうして得た額縁ですから、多分手放さないだろうとは思いますが、皆さんはこの話、どう思われますか?
それでは天使ではなく、悪魔の顔が付いていたらどうでしょう。
皆さんはそんな額縁あるの?と思われるでしょうが、これがあったのです!
その額は第1回の話に出てきた大きな祭壇額を手に入れた画材屋で見つけました。
レジの奥に飾ってあったので、どうやら売り物ではなかったようですが、興味があったので試しに値段を聞いてみました。
すると9万2千円という驚くほどの高値が返ってきました。
大きさはサムホールですから、普通の額に比べると約10倍、高価な額の場合でも約3~4倍の値段です。
さすがにその場では買うことはできませんでしたが、いつか買ってやろうという気持ちで店を離れました。
それから数年たった頃、横浜高島屋の個展初日に絵の売れ行きが良かったことで気が大きくなり、会場からその画材屋に電話を入れました。
もちろんその額がまだ残っていれば手に入れたいという申し入れの電話です。
幸い残っていたので(デザインもあくが強く、値段も超高価なので、残っていて当たり前ですが)すぐに購入を決めました。
皆さんいかがですか、この異様なデザイン!(写真12参照)

画面の周囲の文字も謎ですが、悪魔(と思われる)の顔の大きさもたいしたものでしょう。
こんなに主張の強い額、使いこなすにはどうしたらいいのでしょう。
というわけで、この額はいつまで経っても空き家状態、住人知らずなのです(笑)。
三連式祭壇額
次は観音開きの三連式祭壇額です。
美術史上で有名なのはベルギーのアントワープ大聖堂にあるルーベンスの三連式祭壇画で、中央画面はアニメ『フランダースの犬』でネロ少年が最期に見た《キリスト降架》です。(写真13参照)

ルーベンスのものは超大型ですが、私の持っているものは高さ14.5㎝、幅20㎝のミニチュア版です。
閉じた状態で見える画面が二つと開いた状態で見える画面が三つあります。(写真14,15,16参照)



この形式の祭壇画では、普通閉じた状態の画面は地味にし、開いたときに鮮やかなメインの画面が出現するようにします。
私も「羊の世界」を使ってそんな風にしたいとは思っているのですが、画面が何しろ小さいのと、テーマが決まらないので、いまだに構想が浮かびません。
本当に珍しい形の額縁
最期にふたつ、本当に珍しい形の額縁を紹介します。
一つ目はなんと星形の額です。(写真17参照)

これも京都の博報堂で入手したものですが、とにかくこの形にほれ込んでしまいました。
この額も小さいので使いこなすのは難しいのですが、画中に流れ星を入れることだけは決まっています。
二つ目は扇方の額です。(写真18参照)

これは同サイズのイタリア製楕円形額と一緒に売られていたものです。
これもまだ構想は決まっていませんが、画面の形から蓮を描いたら面白いかなと思っています。
皆さん、変わった形の額縁の話はいかがでしたか?
「こんなにたくさんあったのか」と驚かれたのではないでしょうか。
私は個展で絵を展示する場合、絵と額と題名が三位一体となっている状態を心掛けています。
それは来場者の多くがこの三つをチェックされるからです。
額縁も普通だとあまり見ませんが、変わっているとよく見てくれます。
絵がピッタリの額に収まり、題名もピタッと決まっていたら気持ちがいいものです。
それと変わった形の額縁を使いこなすというマニアックな快感もあります。
ですから皆さんもどこかで変わった額縁に出会われたら、ぜひ私にご一報ください。
良い知らせを待っています(笑)。