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第22回「2021年の新作・羊の小品と風景や猫の絵」

前回に引き続き2021年の新作を紹介します。

今回は羊の小品と風景や猫の絵です。
それらの多くは変わった額縁に入れる予定なので、額縁と作品とのコラボにもご期待ください。

羊の小品を描くのは楽しいのですが、小さいながらも一つのアイディアを必要とするので、構想が決まるまでに時間がかかる場合も少なくありません。
なにしろ羊を35年も描いているので、近年はマンネリとの闘いでもあるのです。
また小品では描かれる羊が1頭のことが多いので、印象的な画面にするには、気に入ったポーズにしなくてはなりません。これも候補には限りがあるので、気に入ったポーズは繰り返し使っています。

そんな状況下にあっても、今年は気に入った作ができたので、嬉しい限りです。

最初に紹介するのは楕円形の額に合わせて描いた《アルカディアの虹》です。(写真1)

写真1《アルカディアの虹》額装

大きさは6号程です。
この装飾額は岡山のアムス画材で見つけたもので、箱に入っていたにも関わらず探し出したのですから、この時は勘が冴えていたのでしょう(笑)。
楕円形に合わせて羊の群れを構成しましたが、このサイズにしては珍しく13頭描きました。虹を背景に描いたので全光状態となり、立体感を出すのが難しかったのですが、何とか羊の体のボリュームは出せたように思います。
古代の理想郷アルカディアにふさわしく、全体に明るく平和なイメージにしました。

次はとっておきの変形額に描いた3点を紹介します。F3号のキャンバスに描き、アーチ型額に入れてみたらしっくり収まったのが《自然の力》、SM(サムホール)のキャンバスに描き、祭壇額に入れたのが《秋天行雲》です。(写真2~5)

写真2《自然の力》
写真3《自然の力》額装
写真4《秋天行雲》
写真5《秋天行雲》額装

前者は旧作のリメークで色調を変え、後者は旧作のヴァージョンで、同一モチーフですが構成を変えました。

ちなみに《秋天行雲》の額は宮井氏制作のもので、3年前の定年退職祝いに教え子たちからプレゼントされた2点のうちの1点です。
ようやく中に入れる絵ができたので、その報告も兼ねています。

3点目は円形画面枠の額に描いた《楽園》です。(写真6,7)

写真6《楽園》
写真7《楽園》額装

サイズは正方形のSMで、2頭の美しい羊をエデンの園のアダムとイブになぞらえました。羊の足元の林檎が後の「失楽園」を暗示しています。

以下はミニュアチュール(極小細密画)と言ってもよい3点です。

《月の誘い》は月に向かってジャンプする子羊を描いています。(写真8,9)

写真8《月の誘い》
写真9《月の誘い》額装

この絵で月は子羊の憧れのようなものを表しています。
この羊のポーズは気に入っているので何度目かの使用です。
額はガドロ氏作のもので、絵のサイズは17.5×12.5㎝です。

《Over the Moon》の羊のポーズも何度目かの使用ですが、今回は宮井氏制作の画面枠が上に付いている額に入れることを想定して描きました。(写真10、11)

写真10《Over the Moon》
写真11《Over the Moon》額装

雲海に跳びこむ子羊のイメージですが、月を突きぬけているような構図にしています。
サイズは10.5×9.5㎝です。

《旅立ち》の羊のポーズもお気に入りですが、今回は左右を反転させて用いました。(写真12、13)

写真12《旅立ち》
写真13《旅立ち》額装

旅立つ羊の強い意志を振り返るポーズと重ねた雲で表したつもりですが、いかがでしょうか。
サイズは15×10㎝です。

次は風景です。最初に紹介するのは、珍しい5点の組作品です。
サイズはそれぞれ15×10㎝です。

これまで描いてきたお気に入りの樹を、初めて組作品にまとめてみました。
まずはそれぞれの作品を単体で見せましょう。(写真14~18)

写真14《樹の物語》若木
写真15《樹の物語》一樹
写真16《樹の物語》連樹
写真17《樹の物語》家族樹
写真18《樹の物語》大樹

様々な樹の姿を描いていますが、額に入れるとそれらの構成から一つの物語が生まれるようになっています。(写真19)

写真19《樹の物語》全図・額装

題して『樹の物語』。それぞれの題名は右端が《若木》、2番目が《一樹》、3番目が《連樹》、4番目が《家族樹》、左端が《大樹》です。
これら5点のつながりで「樹の成長と成熟」を表しています。
また空の雲の変化にも目を留めてください。
主役の樹と雲との関係を読み解いていただけたら嬉しいです。

次に2点は向日葵をモチーフとした対作ですが、全体は風景画としてまとめています。
この巨大な向日葵の発見は全くの偶然で、私のランニング・コースの道端に咲いていたので、幸運にも出会えたというわけです。
それも大輪の花の重さで深く首を垂れているところからも分かるように、かなり末期の姿です。
実際に私が写真を撮った数日後には刈り取られていました。
今までにない角度とイメージで向日葵を描くことができたことに私自身も満足しています。

この対作は同じ向日葵を向かい合うように描きながら、光と影の配置と空の色調、さらには画面の形を変えて異なるイメージを表しました。
《炎暑》は昨夏の強烈な猛暑の記憶を、赤みを入れた空の色に託しています。(写真20~22)

写真20《炎夏》全図
写真21《炎夏》部分図1
写真22《炎夏》部分図2

一方《8月の記憶》は影の部分が多く、暗いイメージから「8月の終戦」と晩夏のイメージを重ねてみました。(写真23~25)

写真23《八月の記憶》全図
写真24《八月の記憶》部分図1
写真25《八月の記憶》部分図2

空を舞う鳶は空の高さを表すとともに、空襲の飛行機を暗示しています。
この向日葵はその巨大さにもかかわらず、支え棒なしで立っていました。
豊かに成長したたくさんの葉でバランスを取っているのだと思い、その葉に光が当たって輝いている様を慈しみながら描きました。
自然の凄さと植物の生命力を垣間見た気がします。

最後の1点は猫の絵です。

現在我が家にいるのはムク(無垢)というオッドアイの白猫です。
もう16年も生きていますが、奥さんによりなついていたので、これまで何度も奥さんとの組み合わせで私の絵に登場しました。
しかし近年は私との中が急に深まり、よく私の左腕に乗ってくるようになりました。
そんな変化が私にこの絵を描かせたのです。

なんと初めてのムクとのツーショットです!(写真26)

写真26 ムクと私

ポイントは猫と私の顔の距離感と私のセーターの黒と猫の体の白の対照です。
ちなみに私のセーターはイタリア製のお気に入りですが、その質感がよく出たのではないかと思っています。

以上すべてではありませんが、2020年に描いた新作を2回にわたって紹介させていただきました。
これらの作品は秋の一陽展や個展で公開すると予定です。ぜひ実物を見に会場に足を運んでいただけたら幸いです。

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