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第23回「ちょっと変わった会場での個展」

3月になりましたが、コロナ禍の中、皆様いかがお過ごしでしょうか。

例年だと私は花粉症に悩まされ始めている時期ですが、そんな例年が早く戻ってくれないかとつい思ってしまうほど、長い「異例の日々」が続いています。
しかし「巣篭もり」でじっとしているばかりにはいかないので、今年は作品発表を行います。
ニュースの告知でもお知らせしていますが、3月21日~6月6日にかけて、ちょっと変わった会場で個展を開くことになりました。

これまで個展はすでに通算で35回もやっています。
内訳は美術館で4回、デパートの美術画廊で12回、ギャラリーで19回です。
そんな中、以前からオファーのあった兵庫県は川西市の版画ギャラリー手風琴(てふうきん)で今回やることになりました。

このギャラリー手風琴は通常のギャラリーとはちょっと違います。

どこが違うのかというと、ギャラリー手風琴は小林さんという方の私邸の中にあるのです。
我が家にも私設のギャラリーはありますが、それは大作を展示するために作ったもので、居住空間とは完全に切り離されています。
小林さんの場合はあくまで通常の私邸の中にギャラリー空間を取り込んでいるのです。
ですから玄関を入ると最初のギャラリー空間が出迎えてくれます。
階段へのルートにも階段の壁面にも絵が飾られ、2階に行くと居間にもたくさんの絵が飾れるようになっているのです。

今回実際に小林さんのお宅を訪ねてみて、私邸でも工夫すればかなりの数の絵が飾られることに改めて気付かされました。
私の家でも玄関や居間だけでなく、客間の和室にまで油絵が飾られていますが、それは「絵が飾られているとこんなにもその空間が生きてきますよ。」という私なりの提案をしているつもりなのです。
きっと小林さんも同じ思いを抱いている方なんだろうと思いました。

小林さんは以前私の家に来たことがあり、その時に「我が家にもギャラリーがあるので、先生の個展をやらせてほしい。」というオファーをいただきました。
私は個展をやる場合には必ず会場を下見して、自分に合った会場かどうかをチェックしたうえで最終判断をします。
一昨年、小林さんから再びオファーをいただいたので、今回はきちんとご自宅を見せていただき、会場に興味を持ったので、やることにしたのです。

やる以上はその会場の特色を生かすような展示を心がけますが、今の計画では50号からミニュアチュールまで、30点くらいは飾る予定です。

そこで、オープン前に何点かの作品紹介をしたいと思います。

※全ての画像をクリックすると、画面に合わせたサイズで画像を表示することができます。

写真1 蓮・五彩 全図

最初は2013年以来久しぶりに展示する組作品《蓮・五彩》です。(写真1~6)

モチーフは我が家から車で20分程の所にある、秀吉の水攻めで有名な高松城址の蓮です。
以前は8月初旬になると毎年のように撮影に出かけたものです。
蓮の魅力は、ひょろ長い茎の上に大輪の花を咲かせるその生命力です。
開花した後三度開閉を繰り返して生命を謳歌し、最後にはまた種を水中に放って朽ちていく潔い生き様にも惹かれます。
《蓮・五彩》では、そんな蓮の生態の内、開花期の変化に焦点を当て、魅力的な五つの瞬間を描いています。

写真2 蓮・五彩 部分図1
写真3 蓮・五彩 部分図2
写真4 蓮・五彩 部分図3
写真5 蓮・五彩 部分図4
写真6 蓮・五彩 部分図5

次は貴重な楕円形の額に収めた《二つの世界》です。(写真7)

写真7 二つの世界

この変形額は神保町の草土舎の2階で眠っていたものを私が執念で見つけたもので、見つけた時の感動は今でも覚えています。
草土舎ではこのような出会いが何度かありました。

この額にどんな絵を収めようかと長いこと考えていて、ようやく一つの形になったのが《二つの世界》なのです。

モチーフはヨーロッパの風景ですが、実は私が好きなイギリスとドイツの風景を組み合わせています。
向かって右と左どちらがイギリスで、どちらがドイツだと思いますか?
ヒントは、片方は管理された自然で、片方は野生に近い自然が描かれていることです。
また歴史的にも対立することは多かった両国なので、平和を祈る気持ちをいくつかの羊の描写に込めています。
その辺りもじっくり読み解いていただけたら嬉しい限りです。

次の絵も2013年以来の久しぶりの展示です。
風景画といってもあまりにも殺風景なので、どこまで皆さんに喜んでもらえるか心配です。

《春を待つ道》は残雪のある3月の田園を描いています。(写真8)

写真8 春を待つ道

田圃を仕切る畦道の表情に惹かれて描きました。
レンゲの花も風にそよぐ稲穂も収穫間近の黄金色の輝きもない3月の田園にも、私は魅力があると思います。

これに対しサムホールの小品ですが、《デルフトの記憶》には、5月の光の恵みが溢れています。
(写真9,10)
2017年に岡山県の奈義町にある現代美術館で私の企画展が開かれた時に、何度か通った近くのレストランで見つけた風景です。

写真9 デルフトの記憶・全図


光が自然の木々や水辺に注がれる様を、ディテール写真でもお確かめください。
題名はこの絵が完成した時にフェルメールの《デルフトの眺望》という絵をふと思い出したからです。
水辺の反映や静かな雰囲気が何となく似ているように思えたのかもしれません。

写真10 デルフトの記憶・部分図

奇抜な発想の羊の絵も紹介しましょう。
《翔・夏のファンタジー》です。(写真11)

写真11 翔・夏のファンタジー

雨上がりの虹が架かる田園で二頭の若い羊が戯れている情景を描いています。
右側の羊は少しジャンプしていますが、左側の羊は宙に浮いています。
その羊に生えた翼が向日葵の花弁でできているところがポイントです。
私は真夏に咲く向日葵が大好きですが、それは自然の生命力の強さ、たくましさを感じられるからです。
向日葵のエネルギーなら羊も宙に浮かび上がれるのではないかと妄想し、向日葵の花弁の羽根を初めて描いてみました。

このような奇抜な発想を絵にするには、少しの勇気と旺盛な遊び心が必要なのです。

遊び心という点では次に紹介する猫の絵も必見です。

《海辺のリフレイン》は、現在飼っているムクを描いたものです。(写真12)

写真12 海辺のリフレイン

以前に撮った、ムクが床の上で目いっぱい体を伸ばしている写真から発想しました。

すぐに気づかれたと思いますが、ムクのシルエットと雲の形が相似形になっています。
よく見ると海に浮かぶ島の形も。
さらには浜辺に打ち寄せる波の形も相似形で、三重のリフレインになっています。
これは一種の“形のこだま”で、形が反復されることで、その形を強く印象付けようとするねらいです。

この絵を収めた額は、この絵にとても合っているので、会場を訪れた方は是非その辺りも見てください。

猫の絵を最後にもう一点。

《塀の上の楽園》です。(写真13)

写真13 塀の上の楽園

モデルは私の飼い猫ではありません。
ご近所の方が飼っていたチロという名の猫です。
最初は警戒していましたが、すぐに私になつき、私の体にスリスリしたり、何度も抱っこさせてくれたりました。偶然向かいの家のブロック塀の上で、気持ちよさそうに休んでいる姿を見つけたので写真に撮り、絵にしました。
塀に当たる光と影の対比の中、幅の狭い塀の上にバランスよくくつろぐ猫の姿を見て、うらやましく思ったり、癒されたりする方がいてくれれば幸いです。

以上、一部ですが展示予定の作品を紹介させていただきました。

大勢の方に見ていただきたいのですが、下火になったとはいえコロナ下での開催ですので、密を避けるためにできるだけ電話予約をお願いします。
ご面倒をおかけしますが、よろしくお願いします。

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