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第33回「文字なし絵本2」
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新年になりました!皆さんお元気ですか。私は絵本のお陰で大変元気です(笑)。
優れた絵本は本当に活力を与えてくれます。
そこで今回も素晴らしい絵本をお届けしたいと思います。
最近は『美術の散歩道』が『絵本の散歩道』になったんじゃないかというくらい
絵本の話が続いていますが、実はまだまだ続くのです!
皆さんが飽きずに付き合ってくだされば幸いです。
今回は文字なし絵本の2回目をお届けします。
文字なし絵本を取り上げた講習や授業をやると、
そこで初めて文字なし絵本に接する人が多いのですが、
最後にはほとんどの人が文字なし絵本の魅力にはまります。
テキストがないので流れを自分で読み取らなくてはならないのですが、
それが結構楽しいようです。
また他の人の解釈を聴けるのも嬉しいようです。
ただし絵に魅力があってこその話ですから、
文字なし絵本は作者にとってはハードルが高いと言えるでしょう。
私が文字なし絵本の導入によく使う二つの絵本から紹介しましょう。
ひとつは『TRUCK』(Greenwillow)で、作者はドナルド・クリューズです。(写真1)
おそらく幼児向けの絵本ですが、高いデザイン性を持ったすぐれ物です。
子ども用の三輪車を積んだ大きなトラックが出発してから
目的地に着くまでの行程をていねいに描いています。
子どもは乗り物が好きですから、途中でトンネルを抜けたり、
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ドライブインに寄ったり、雨の中を走ったりしますので、
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2021/12/bs-2201-03.jpg)
自分がトラックを運転しているような気分になるのではないでしょうか。
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見どころは画面構成と色彩です(写真2,3,4)。
もう一つは『TRAINSTOP』(HMCo)で、作者はバーバラ・レーマンです。(写真5)
こちらは主人公の女の子が両親と列車に乗って郊外に出かけた際の不思議な体験の話です。
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2021/12/bs-2201-06.jpg)
列車がトンネルを抜け停車した所に小人の国があり、
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相対的に巨人になった女の子が、小人たちの窮地を救って帰ってきます。
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2021/12/bs-2201-08.jpg)
そこへ、飛行機に乗った小人たちから贈り物の樹の苗が届くという展開です。(写真6,7,8)
この苗は小人の国にたくさんあった樹の苗ですが、
それが何を象徴しているのか、
また最後のシーンでは街中にこの樹がいくつも見受けられますが、
それはなぜなのかを考えるのが、この絵本の核心です。
その答えが出れば、子ども心を取り戻すきっかけになると思います。
次に紹介するのは、授業ではまだ扱ったことのない文字なし絵本です。
タイトルは『ふたごのうさぎ』(NHK出版)。
作者はオランダのダフネ・ロウターです。(写真9)
この絵本は書店の絵本棚で偶然見つけ、貴重な文字なし絵本だったので買いました。
もちろん絵に魅力を感じたからこそ買ったわけですが、
最初はしかけがもうひとつ読み解けなかったのです。
帯に「ページをめくるたびに新しい発見があります」とあるので、
何かを発見しようと画面の隅々までよく見ました。
ストーリーはふたごのうさぎの朝起きてから夜寝るまでの一日の様子です。
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2021/12/bs-2201-10.jpg)
主な画面は右ページで、左ページには右の絵の中から抜き出した一つのモチーフが描かれています。
これが繰り返されて行きます。
私が発見したのは、
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2021/12/bs-2201-11.jpg)
そのモチーフが次の右ページの画面にも必ず登場するということです。(写真10,11,12)
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2021/12/bs-2201-12.jpg)
この絵本を親子で読む場合、親は子どもにそのモチーフを2回探させることができるというわけです。
これは子どもがはまる可能性が高いと思われます。
子どもに注意深く絵を見させるのが作者の意図でしょう。
ちなみに最後に出てくるモチーフは、最初の右ページの絵にも出てくるので、
エンドレスな構成になっているのもしかけです。
もう一つのしかけは、ふたごのうさぎとは別にすべての画面に登場しているものがいることです。
ちょっと注意すればそれが何であるか気づきますが、
そうしたらそれを常に画中に探すことになるので、
さらにすみずみまで見ることになるのです。
そして私が是非見てほしいのは、
時間ごとに微妙に変化していく色調と、室内のこまごまとした描写です。
それらのおかげできっと最後まで飽きずにこの絵本を眺めることができるでしょう。
4冊目はちょっと変わった文字なし絵本です。
作者のエドワード・ゴーリーの絵本は怖くて謎に満ちているので、その筋ではかなりの人気です。
この絵本を知ったのは新聞の書評で、
現代美術家の束芋(たばいも)さんが推薦文を書いていたので、興味を持ちました。
タイトルは『ウエスト・ウイング』(河出書房新社)。(写真13)
私は授業では形而上的な絵本として紹介しています。
全編濃密なペン画で構成されていて、
ストーリーはあるようなないような感じで、
物語を構成するのは読者ということになります。(写真14,15,16)
ウエスト・ウィングの建物の中で何か事件が起きているのは間違いないのですが、
それを論理的に説明できる人はいないでしょう。
逆に言えば人間は想像力の世界でも生きられる存在であることを再認識する機会にもなります。
言葉では説明できない深い精神世界があることを、
このような絵本を通して知ることは、極めて有意義だと私は考えます。
最後の2冊は、『日米文字なし絵本対決』と称して、私が授業でよく取り上げる傑作同士です。
日本では文字なし絵本は少ないのですが、この絵本は日本的という形容がぴったりですし、
日本を代表する絵本にふさわしいと思います。
タイトルは『the silent book』(8plus)で、作者は芳賀八恵です。(写真17)
装丁の素晴らしさに惹かれ、この絵本を手にとって開いた時の感動は、今でも忘れません。
何しろ最初の見開きは黒のベタですから驚きました。
「何だこれは?」と思って次のページをめくったら、
かすかな光が植物たちの繊細な姿をほのかに浮かび上がらせたのです。
これでやられました。
授業のスライドショーでもここで驚きの声が上がります。
私の提唱する絵本のメディア性の中の「めくる、見開きになる」を
こんな形で効果的に生かした例は、他に見当たりません。
森の夜明けとともに生きものたちが動き出す過程を、
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あるものの眼から見た世界として描き出しています。(写真18)
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途中で起きる唯一の事件が、蜘蛛の巣が破れるシーンです。(写真19,20)
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「なぜ蜘蛛の巣が破れたのか?」は「この絵本の各場面は、誰の眼が見た光景か?」と並んで
この絵本を読み解く上で、重要なポイントです。
答えを言ってしまったら面白くないので、
機会があれば皆さんもぜひこの絵本にチャレンジしてみてください。
これに対するアメリカの代表が『タイムフライズ ときをとびぬけて』(ブックローン出版)で、
作者はエリック・ローマンです。(写真21)
案内役の小鳥が博物館に迷い込み、恐竜の骨格標本をくぐり抜けるうちに恐竜の時代にタイムスリップし、再び現実世界に舞い戻ってくるという展開です。
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2021/12/bs-2201-22.jpg)
こちらの事件は小鳥が大型肉食恐竜に食べられるシーンです。
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大胆なトリミング構図とリアルな描写、強い明暗の対比、カラフルな色彩で、
現代と古代の恐竜の世界を堪能させてくれます。(写真22,23,24)
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2021/12/bs-2201-24.jpg)
授業では「何故案内役が小鳥なのか?」を考えさせたり、
見開きページの連続活用の仕方や、
現代と古代の切り替え方などに注意を払わせたりします。
そして『the silent book』との比較で共通点や相違点を探させ、
最終的にどちらの絵本がより優れているかを判断させます。
難しい課題ですが、絵本を深く味わうためには、時にはこんな経験も必要と考えています。
以上、今回は6冊の文字なし絵本を紹介しましたがいかがでしたか?
『ふたごのうさぎ』もだいぶ読み解けた気がしましたので、授業にも使えそうです。
予定では文字なし絵本の紹介は後1回予定されていますので、
どうぞお楽しみにしていてください。