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第45回『猫のギャラリー』第1回 ムクの巻 その1

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新年明けましておめでとうございます。
今年も『美術の散歩道』をよろしくお願いします。

今回から新しいテーマに変わります。
『猫のギャラリー』と題しまして、
これからしばらくは、私が今まで描いてきた猫の絵をできるだけたくさん紹介する予定ですから、
ご期待ください。

私が今まで飼ってきた猫の数は12匹。
内2匹は子ども時代に飼っていた猫なので、絵には描いていません。
残りの10匹の内2匹は私に拾われた後、半年足らずで交通事故で亡くなったため、
絵にする時間がありませんでした。

結局絵に描いたのは神奈川県にいた頃から飼っていたタローとジローの姉弟とゴン、ジェフ、
岡山県に移ってから出会ったゴロ太とモン太の兄弟とムク、チャゲの8匹です。
他に注文などで描いた猫たちも何匹かいますが、中心はやはり飼い猫たちです。
彼らの絵をどのような順番で紹介しようかと迷ったのですが、
現在飼っているムクから始めることにしました。(写真1 肩に乗るムク)

写真1 肩に乗るムク

ムクは漢字では「無垢」を当てています。
全身真っ白なので単純にシロという名前を付けようと思ったのですが、
少し前に尻尾だけが少しグレーがかっている白い子猫を拾ってシロと名付けていたことがあったので、
今度は「純白」という意味で「無垢」にしました。

ムクが生まれて2週間くらいの時に我が家にやって来たのが2003年10月でしたから、
今年は20年目になります。
こんなに長く付き合った猫はムクが初めてです。
一緒に暮らしている時間が長いので、絵に登場する機会も当然多くなります。

ムクを描いた最新作《窓辺の化粧》から紹介しましょう。
サイズはF0号ですから、17.9×13.9㎝の小さな絵です。(写真2)

写真2「窓辺の化粧 」(2022)

窓辺で陽光を浴びながら身づくろいするムクの姿を描いたこの1作は、
かなり良い出来だと自負しています。
ムクの体の光と陰の対比、猫の毛と窓枠の質感の対比、
窓外の風景などが見どころになっていると思いますが、いかがでしょうか。

元にした写真では光が強いため、明暗のコントラストが極端過ぎて、
ムクの体の光の当たった所などは真白に飛び、逆に左側の窓枠は真黒です。
絵ではそれを肉眼で見たように補正し、柔らかい調子にまとめ上げることができるのです。

この窓辺は書斎の南側にあり、
ムクは半開きの窓から外の景色を眺めるのが好きで、
鳥の声が聞こえ陽だまりにもなるので、かなり長時間居ることもあります。

写真3「窓辺の化粧・部分」

部分図と額装写真も上げておきますので、毛並みの描写や額縁のどの辺りと絵のどの部分が呼応しているのかなど、じっくりご鑑賞ください。(写真3、4)

写真4「窓辺の化粧・額装」

この絵がムクのリアルな日常の一コマとすれば、
次に紹介する《降臨》は、猫の持つ神秘性を引き出した象徴的な作です。

写真5「降臨」(2022)

これも大きさはF0号の小品ですが、光源が太陽から満月に変わり、ムクのいる空間も抽象的なものになっているので、超現実的な雰囲気が漂っています。(写真5)

元々はムクが階段の上でこのポーズをしながらじっとしていた姿を写真に収めてあったので、
そこから発想が浮かんだのです。

ムクが背負っている満月は見方によっては仏像の光背のようにも見えるので、
この絵の前に描いた同構図のミニアチュール(9×6㎝)では、
装飾過剰な黄金の額縁に入れて、題名も《月光菩薩風》としました。(写真6)

写真6「月光菩薩風」(2021)

一方《降臨》の額縁はというと、こちらは扉が開閉する特別な変形額に入れました。(写真7)

写真7「降臨・額装(閉じた状態)」

扉の内側にキャンバスが貼ってあったので、地塗りをして、そこに夜の風景を描きました。
左側が流れ星で、右側が一番星です。(写真8)

写真8「降臨・額装(開いた状態)」

このように月と猫の相性はいいので、これまでも似た作品をいくつも描いています。

写真9「月・猫 額装」

例えば幼い時のムクを描いた《月・猫》は5×5㎝のミニアチュールですが、
暗い中で光る猫の眼も描いています。(写真9,10)

写真10「月・猫 」(2008) 5×5㎝

しばらく後に描いた《月と猫》もポーズは違いますが同趣のミニアチュール(7.5×5.5㎝)で、

写真11「月・猫 」(2013) 7.5×5.5㎝

こちらも派手な額縁に入れていますが、何故かこの画題には合うのです。(写真11,12)

写真12「月・猫 額装」(2013) 7.5×5.5㎝

では、ムクを描いた最初の絵はどんなものだったのでしょうか。

それは《夢》と題されたF4号の作品で、茫洋とした野原に迷い込んだ一匹の白猫の情景です。
まさに白昼夢の雰囲気ですが、
ムクは家猫として飼っていたので、絵の中で野に放ってみたのです。(写真13)

写真13「夢 」(2004)

本来はどの猫も昼間は外、夜は中という「半ノラ生活」をさせたいのですが、
岡山に連れてきたタロー、ゴン、ジェフの3匹が、私たちの油断で白血病ウィルスの病にかかり、
1年から1年半の間に次々とこの世を去った苦い経験から、
特別な事情がない限りは家の外には出さないようになったのです。

ですから《夢》のような絵を見ると切ない気持ちにもなりますが、
ムクが今でも存命であることを考えると、これでよかったと思うのです。

最後にムクと私を描いた2点を紹介します。

ムクと私の関係ですが、ムクにとって私は格好の遊び相手のように思われます。
しばしば私を呼びに来ては家の中の散歩に誘います。
その途中で色々なサービスをムクにしてやるのですが、それがきっと心地よいのでしょう。
どこか私を従えているようなところも気分がいいのかもしれません。

そんなムクが若い頃は寝ている私をよく起こしに来ました。
忍び足で寄って来て、顔をなめたりして起こすのです。
こちらはドキッとしますが、そのうちになんとなくムクの気配を感じるようになって、
起こされる前に起きるようになりました。

写真14「夜明けの使者 」(2008)

そんな状況を絵にしたのが《夜明けの使者》です。(写真14)

夜明けの光を浴びながら、ムクが空き缶の船に乗って、
私の横顔の形をした島に忍び寄ってくる場面です。
私は想像上の場面を描く時、色で苦労したことはあまりないのですが、
この絵でも夜明けの色調は上手く出たように思います。

もう一枚は近作の自画像《無垢と私》で、ムクとのツーショットになっています。(写真15)

写真15「無垢と私」(2021)

抱っこが嫌いなムクですが、私の膝の上にはよく乗ってきます。
ただし私の顔は避けることが多く、
この場合も私の顔から逃げるような方向に顔を向けて左腕に持たれています。
そこで二つの顔の遠近を少し強調して、奥行きを表現しました。
ムクが主役で私は背景というわけです。
ムクはこれまで長生きする中で色々な福音を私たちにもたらしてくれた気がするので、
これくらいの扱いでいいと思います(笑)。
絵としては、私のお気に入りのイタリア製のセーターの質感がよく出たと思いますので、
そちらもご確認いただければ幸いです。

ムク編は次回も続きますので、お楽しみに!

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