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第46回『猫のギャラリー』第2回 ムクの巻 その2

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2003年の10月にムクが我が家に来た時は生後2週間余りで、
あまりにも小さかったので、しばらくは壊れ物を扱うようでした。

写真1 ムクとゴロ太

その時我が家にいたのが、やはり赤ちゃんの時から飼っていたゴロ太という大きな猫で、
ムクはゴロ太に甘えて、幼少期を過ごしました。(写真1、2)

写真2 ムクとゴロ太

しかし猫の成長は早く、見る見るうちにゴロ太の大きさに迫っていきました。
ムクは全身真っ白で、左右の眼の色が異なるオッドアイの猫です。

そんなムクの肖像とも言える1点から紹介しましょう。
その名もずばり《オッドアイー幸せを呼ぶ猫-》です。(写真3)

写真3《オッドアイ ー幸せを呼ぶ猫-》2009

直径15センチの円形の画面にムクの全身をすっぽり納めています。
普通、絵は地(背景)と図(主役)から成り立っていますが、この絵は地がなく図のみでできています。

そこが作画の意図で、絵画の珍しいあり方を示してみたかったのです。
猫はこのような空間が大好きで、円い籠や屑入の中などに納まっては心地よさそうにしています。
しかしこの絵はムクの肖像画ですから、神経質そうなムクの性格が出るように、
少し緊張している表情にしました。(写真4)

写真4《オッドアイ(部分)》

次の絵は、アトリエでのムクの様子を想像で描いたもので、
アトリエの高窓に何かの気配を感じた猫の生態が主題です。(写真5)

写真5『窓の外』2008

前のアトリエは自然豊かな環境の中にありましたから、よくヤモリが現れたものです。
絵を描いている私は気づかなくても、猫の方が先に気付いて、
ヤモリの存在を人間に教えてくれるのです。

そのような緊張した場面とは対照的なのが、次の絵です。
この絵ではムクは塀の上で日向ぼっこをしていて気持ちよさそうにしています。
実はムクは家猫ですから、これも想像の場面です。(写真6)

写真6《スフィンクス》2010

題の《スフィンクス》の意味が分かりますか?
スフィンクスはピラミッドの守り神です。
画面をよく見てください。
見立てのスフィンクスがあるでしょう!
そうです。向かいの家の屋根のシルエットをピラミッドに見立て、
その前でゆったりしたポーズをとっているムクをスフィンクスに見立てたのです。
こういう絵は描いていても楽しいですね。

次の2枚は、夏と冬におけるムクのリアルな生態を描いています。

猫は四季を通して一番心地よい場所を見つけて生活するとよく言われますが、全くその通りです。
最初の絵ではムクが見つけた場所がどこだか分かりますか?
よく見ると蓋の蝶番がヒントになっていて、グランド・ピアノの上と分かります。
ピアノの上は高い場所で安心だし、きっとひんやりして夏は気持ちがいいのでしょう。(写真7)

写真7《On the Piano》2015

この絵では眠るムクの顔が蓋に映っているところがポイントです。
写真で撮ると明暗のコントラストが効きすぎて、実像と映像のどちらかがつぶれてしまいます。
前回も述べましたが,絵ではそれを補正して、
実像も映像もどちらも適度に再現することができるのです。
ムクの幸せそうな顔を味わってください。(写真8)

写真7《On the Piano(部分)》

一方、次の絵では場所の特定は難しいのではないでしょうか。
ヒントは「冬の陽だまり」です。
秋から冬にかけて、天気の良い日にはベランダに布団を干しますが、
冬は猫にとってもそこが楽園なのです。
ムクも温かい陽射しを求めて、しばしばベランダに出ては、
陽だまりでしばらくじっとしています。(写真9)

写真6《陽だまり》2016

この絵ではそんなムクの気持ちを考えて、
ベランダに敷かれた樹脂製の床板の色を暖色にして、温かさを演出してみました。
というわけで、この2枚は「夏と冬の猫の楽園」がテーマの対作であり、
猫を画面上部に配置した構図の共通性や無彩色と暖色の色彩の対照性が特色となっています。

ところで、冬は陽の差す場所に広げた羽毛布団の上も大好きなので、
その光景もいつか描いてみたいと思っています。

最後はムクとムクを育てた家内の結びつきの強さを示す作品群を紹介して、
ムクの巻を閉じたいと思います。

ムクにとって私は遊び相手か散歩友だちですが、
赤ちゃんの頃から色々と世話をしてくれる家内は、ムクにとって母親のような存在なのでしょう。
ムクの態度を見ていると、明らかに私と家内を使い分けているように思えます。
一言で言えば家内には甘えているのです。
私は家に居ても、絵を描いている時はほとんどムクの相手をしませんし、
ムクとの接触時間は圧倒的に家内の方が多いのです。
私の眼から見ると家内の世話は「至れり尽くせり」です。
そんな両者の関係を見ているので、描く場面も自然と密着型のものになります。
1枚目は家内がムクを抱いている場面ですが、
それがラファエロの聖母子画である《小椅子の聖母》を彷彿させたので、
題名を《無垢と窓女》にしました。(写真10)

写真10《無垢と窓女》2008

この題名を何度か連続で口に出してみてください。
きっと《ムクとマドンナ》に聞こえてくるはずです。
抱かれているムクの幸せそうな表情がすべてです。(写真11)

写真11《無垢と窓女(部分)》

この絵は想像によるものですが、

撮った写真を思い切りトリミングして、リアルに描写したものが、

写真12《ボレロを聴きながら》2011

次の《ボレロを聞きながら》です。
この絵は変形7角形の凝った額に収まっています。(写真12)

この絵を描いた頃、ラベルの『ボレロ』という曲にはまっていて、
ムクの表情が音楽を聴いているようにも見えたので、この題にしました。
この絵では左向きの家内の横顔が光を浴びる一方、
右向きのムクの横顔は陰に入っているという対照性がねらいです。
陰に入ったムクの顔の表情や光に透ける耳の描写をじっくりと味わって下さい。(写真13)

写真13《ボレロを聴きながら(部分)》

家内とムクの絵のトリは、《カラヴァッジョ風 猫と戯れる女》です。(写真14)

写真14《カラヴァッジョ風 猫と戯れる女》2013

サイズは8×13㎝ですから、ミニアチュールです。
この絵は私が家内の誕生日に送った最後の絵ですが、
今は私の仕事場である書斎の書庫に飾られています。
カラヴァッジョは私が敬愛するバロック絵画の創始者で、
暗い背景に明暗のコントラストを強調して、市井の風俗をリアルに描きました。
私もこれにならって描いてみたというわけです。

アップの画像で、ムクの至福の表情をお楽しみください。(写真15)

写真14《カラヴァッジョ風 猫と戯れる女(部分)》

こうして愛猫を癒していると、同時に人間の方も癒されているわけですが、
これがペットのもたらす恩恵のひとつでしょう。
最初に紹介した《オッドアイ》の副題に「幸せを呼ぶ猫」と付けましたが、
ムクに限らずこれまでに飼っていた猫は、
みんな何らかの福音を私たちにもたらしてくれたように思います。

次回からは神奈川県で最初に飼っていた猫たちの絵を順に紹介していきます。お楽しみに!

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