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第47回『猫のギャラリー』第3回 タローとジローの巻

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今回から時間を35年ほど前に戻し、私たちが神奈川県の伊勢原市で暮らしていた頃の話をします。

私たちは23歳の時に結婚しましたが、最初は実家で間借り生活をしていました。
私が絵を描く場所が必要だったのと、家内が持参したグランドピアノの置き場も必要だったからです。

実家には5年半ほど厄介になりましたが、28歳の時に一念発起し、
夫婦で大借金をして上粕屋という所の土地を買い、最初の家を建てました。
小さいながらも2階建てで、自分で考えた間取りや外観でしたし、
アトリエ兼書斎やグランドピアノを置く居間も作りましたから、その喜びはひとしおでした。

そこで5年くらい暮らした頃、我が家に2匹の迷い猫がやってきました。
生後半年くらいで、もう子猫ではありませんでしたが、どうやら飼い主に捨てられたようでした。
それが今回の主役タローとジローです。

種類はキジトラの黒と茶で、名前は2匹を見た印象で私が瞬時に着けたのですが、
後でジローの方は雌だと分かりました。
しかし、ピカソの愛人の一人であったフランソワーズ・ジローというフランス人女性もいるので、
まあいいかとそのままにしました。

家内は猫を飼ったことがなかったので、最初は怖がりましたが、
餌付けをしているうちに可愛くなったのか、抱けるようにもなりました。(写真1)

写真1 我が家に来て慣れてきた頃の2匹

2匹とも私たちによくなついてくれて、私たちを大いに楽しませてくれました。

タローは穏やかでのんびり屋、ジローは勝ち気で俊敏な猫でした。
2匹で遊ぶ時は、いつもタローはジローにやられっぱなし。
木登りが好きだったジロー、嬉しくて舌を出しています(写真2)。

写真2 好きな木登りでご機嫌のジロー

私の車に後ろ足を轢かれて骨折した時のタロー(写真3)。

写真3 後ろ足をケガした時のタロー

私が腕立て伏せをやっていると背中に乗って来て、そのまま居続けるタロー(写真4)。

写真4 腕立て伏せをしても背中にいるタロー

ジローは私が絵を描いていると、時々膝の上に乗ってきました。
長くいると重いのですが、できるだけ我慢して描き続けました。(写真5)

写真5 絵を描く私の膝の上のジロー

そんな2匹を描いた絵を順に紹介していきます。

最初は2匹の肖像画ともいうべき作品《望郷Ⅱ》です。(写真6)

写真6《望郷Ⅱ》

題名からも分かる通り、この絵は岡山に移ってから、上粕屋時代を懐かしんで描いたものです。
上粕屋時代はまだ横浜国大附属横浜中に勤務していたので、
タローやジローの絵を描く時間がなかったのです。

絵の中では2匹とも柿の木の上にいますが、よく登っていたのはジローの方です。

それぞれのタイプの違いをポーズで現したつもりですが、分かりますか?

写真7 タロー

背景には私たちが暮らしていた牛舎のある丘や、私の生まれた大山山麓なども描かれています。
そのあたりはそれぞれの画面で確認してください。(写真7,8)

写真8 ジロー

この絵の前に描いたのが《望郷Ⅰ》です。

ジローは頭の良い猫でしたから、本当は自分だけを飼って、可愛がって欲しかったのだと思います。
次回で述べるように、ゴンやジェフという他の猫たちがやって来てからは、
タローとも仲が悪くなり、別行動をとっていました。

そんな関係で岡山県に引っ越す時に、ジローだけ親友に託して他の3匹を岡山に連れてきたのです。
預けてきたジローのことがしばらくは気がかりで、懐かしいだけでなく、
すまない気持ちもあって描いたのが、この作品だったような気がします。(写真9)

写真9《望郷 Ⅰ 》 

ジローはしばしばどこからともなく表れて、私を散歩に誘うような猫でした。
散歩コースはいつも決まっていてジローが先導して、その後を私が付いていくパターンでした。
川沿いの遊歩道を歩いて目的地の畑に着くと、決まって柿の木に上り、木肌で爪を研ぐのが習慣でした。

この絵はその後、枝の上で周囲を警戒する様子を描いたものです。
この絵は最初に入れた額がしっくりこなかったので、
楕円の凝った額に入れてみたところ妙にマッチしたので、
せっかく描いた四隅は見えなくなりましたが、結局この額に納まることになりました。(写真10)

写真10《望郷 Ⅰ 》額装 

部分図でジローの利口そうな表情(写真11)と、

写真11《望郷 Ⅰ 》部分 

当時私たちが住んでいた家の外観(写真12)を確かめてください。

写真12《望郷 Ⅰ 》部分 

ジローを親友に託してからだいぶ年月が経った頃、
その親友一家が新居に引っ越したということで、私たち夫婦も招待されました。

そこで久しぶりにジローとの再会が実現しました。

ジローは私たちのことをよく覚えていて、夜遅くお忍びで私たちの部屋にやって来たり、翌朝は私たちと散歩に出かけたりと、思い出の場面を見事に再現してくれました。

そんなジローを懐かしんで描いたのが《冬の散歩-ただし猫のいる-》です。(写真13)

写真13《冬の散歩・ただし猫のいる》2010

ジローの上目遣いの表情は私の創作ですが、
散歩の時のジローは自分が主役なので、いつも本当に楽しそうでした。(写真14)

写真14 《冬の散歩》部分

ちなみにこの絵はアンドリュー・ワイエスの《踏みつけられた草》という絵の
パロディにもなっています。(写真15)

写真15 ワイエス 《踏みつけられた草》

一方のタローは散歩や木登りをしない代わりに、
木陰や陽だまりなどでひっそりと安らぐことが多い猫でした。
そんなタローの生態を描いたのが次の2点です。

大輪の向日葵の根元に居心地のいい場所を見つけたタロー(写真16)、

写真16 《花蔭》

向日葵に見守られるように夏の日差しを浴びるタロー(写真17)。

写真17 《花と猫》 2000

どちらも優しかったタローを供養するような気持で描いた絵です。

タローの最期は、私の腕に抱かれて断末魔の叫びをあげて息を引き取ったこともあり、
いまだに申し訳ない気持ちでいっぱいです。

このように最初に飼った2匹の猫と私たちとの相性が良く、
たくさんの思い出と反省を授かったせいで、その後も次々と猫を飼うようになるのですが、

次回はタローとジローの先輩猫たちに加わる新顔の2匹、ゴンとジェフを紹介します。

お楽しみに!

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