
第50回『猫のギャラリー』其の6 チャゲの巻
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早いもので「猫のギャラリー」も6回目ですが、いよいよ満を持して大物の登場です!
それは第3世代の猫で、私たちと約10年暮らしたノラ出身のチャゲです。
チャゲについてはかつて『ギャラリー暦』でも詳しく語りましたので、そちらもお読みください。
チャゲは年齢不詳です。
ノラ猫として我が家にやってきた時には、すでにかなり大きかったので、生後3,4年くらいかと思いました。
痩せこけて、頭ばかりが大きく、顔も不細工で、およそ飼う気にはならない猫でした。
しかし3日間に渡る猛烈なアタックに負け、不憫になってミルクと段ボールを与えた時点で、
チャゲの「就活」は大成功に終わったのでした。
元々人懐こかったのは、誰かに飼われていたのかもしれません。
体の毛が茶色だったので、チャゲ(茶毛)と名付け、とりあえず病院に連れて行くと、
案の定猫エイズという重い病気にかかっていました。
それでも医者が言うように、見た目元気なので10年くらい生きるかもしれないと言われました。
我が家の猫になってからはとにかくチャゲはよく食べたので、体格は急速によくなり、
周囲から可愛がられているうちに顔の表情も柔和になって行きました。
そんなチャゲを映した一枚の写真から紹介しましょう。
切なげにこちらを見上げるチャゲです。(写真1)
これは猫好きの教え子が撮ってくれました。
この写真を見ればチャゲが愛されていたこと、
そしてチャゲがたくさんの幸せを与えてくれたことが分かるでしょう。
すっかり元気になり、悠々自適な日々を送っていたチャゲの三態も見てもらいましょう。(写真2,3,4)
すっかり猫らしさを取り戻しています。
やはり生き物にとって大事なのは十分な食料と安眠できる場所と適度な運動なのです。
チャゲは猫エイズを持っていたので、
その時飼っていたムクと一緒に母屋で生活させることはできなかったので、
昼は外で活動させ、夜はアトリエで眠らせました。
アトリエの出入りは小窓を開けておいたので自由でした。
チャゲはノラ猫の習性で縄張りを作って管理し、他のノラ猫とも時々争いをしました。
しかし喧嘩にも強く、負けたことはほとんどなかったように思います。
しかし優しさもあり、ムクが外へ出てしまった時は、
私たちが見つけるまで微妙な距離でムクを見守ってくれていたり、
チャゲが落ち着いた頃我が家に迷い込んできた子猫のコゲにも優しく接し、
かつてのタローやゴンのように育ててくれたりもしました。(写真5)
私とチャゲのツーショットは色々な場で公開しているので、
今回はあまり出していない写真をお見せします。(写真6)
アトリエで私の膝に乗るチャゲです。
写真1と同じような表情をしています。
ここからはチャゲを描いた作品紹介です。
最初はアトリエで身づくろいをする様子を描いた小品《アトリエにて》です。(写真7)
右奥にチャゲが出入りしていた小窓と傍に置かれた大きい筆洗器も描かれています。
チャゲは固太りだったので、どのポーズにも力強さがありました。
とりわけ丸まったポーズは見事で、体からパワーが感じられます。
闘病に苦しんだ最後の半年間を除けば、チャゲは本当に元気だったのです。
そんなチャゲの幸せな時間を描いたのがサムホールの《藤・猫》です。(写真8)
以前住んでいた総社市福井の家にはブロック塀の上に立派なだるま藤の枝が伸びていて、
毎年5月の始めになると満開となり、わずか1週間ですが我が家の庭を輝かせてくれました。
チャゲはその下で暖かい陽射しを全身に受けて身づくろいをしています。
藤棚の濃い影が陽射しの強さを表しています。
次の絵もサムホールですが、スケール感が全く違います。(写真9)
アトリエで腹を出して眠っているチャゲの見ている夢を想像して描いた一枚で、《夢宙》と題しました。
夢の中の宇宙の意です。
猫が夢を見るのかどうかは知りませんが、気持ちよさそうなチャゲを見ていると、
こちらもハッピーな気分になれるのです。
部分図でもチャゲの幸せ気分を味わってください。(写真10)
チャゲを飼ってしばらくすると、大変頭の良い猫だということに気付きました。
ペットとして可愛がられる術を知っていますし、縄張りの管理も上手くやっています。
そこで私の中で妄想が生まれ、
以前飼っていた猫の中で一番頭の良かったジローと絵の中で出会わせてみたくなったのです。
舞台に選んだのは岡山大学教育学部の中庭にあった池です。
背景の緑は池の手前にあった雑木林ですが、
ここは私のお気に入りの場所でもあったので、より鬱蒼とさせて、
架空の出会いスポットに仕立てました。
どこからともなくやってきたジローにチャゲが気付いた瞬間です。(写真11)
この後どんな展開になるのかは皆さんが想像してみてください。
架空の設定という意味では次の作品《眠り・ヒュプノスの王国》も同じです。
登場している猫たちは、左からコゲ、チャゲ、ムクで、
この3匹は同時に飼っていましたが、ムクが家猫で他の2匹が外猫だった関係で、
このように一緒の空間に居ることはありませんでした。(写真12)
そこで絵の中でそれを実現してみた訳です。
3匹とも眠っていますが、
題名にある「ヒュプノス」はギリシャ神話の眠りの神で、耳に翼が付いています。
それを表した古代のブロンズ像を巨大化して描き、眠りの舞台としました。
次の2点はチャゲの生態を描いたものです。
チャゲはしばらくの間ノラ生活をしていたようなので、
時折野性的な緊張感を漂わせた様子を見せました。
《葉陰》は庭木の葉陰に身を潜めて、何かを狙っているような姿です。(写真13)
目の輝きと鋭さが平時とは違っています。
ハガキ・サイズのミニアチュールですが、技術的な密度はかなり高い作品です。
これに対し《待つ》は庭石の上に乗り、私の帰りをじっと待っている場面です。(写真14)
私の車のライトを目にとめた瞬間で、チャゲの眼にもその光が宿っています。
この数秒後、私の車が駐車場に入ると、チャゲが迎えてくれるという場面になるのです。
チャゲは縄張りの巡回にも忙しかったので、疲れてアトリエに帰ってくると、
私の匂いのする回転椅子の上で深い眠りに堕ちました。
そんなチャゲを描いた一枚が《夢の椅子》です。(写真15)
前出の《夢宙》と同様に、この絵でも周囲の情景はチャゲが見ている夢を想像して描いています。
苦労してきたチャゲに安穏とした時空間を与えてあげたいという私の思いが、
夏雲やカモメ、気球に込められています。
これに対し《至福》は
円い体のチャゲが円形の枠にすっぽり収まって眠る様をリアルに描いています。(写真16)
額の色もチャゲの体の色に合わせています。
今回紹介する最後の作品は、M12号のサイズの《PEACE-甍上の休戦-》です。
私の住む吉備路にある備中国分寺の中門の屋根瓦の上にチャゲを乗せ、
ハトを2羽組み合わせた構図です。(写真19)
この絵は「見立て絵」で、日本絵画の伝統的主題である「龍虎の戦い」を下敷きにしています。
屋根瓦の装飾の龍と、虎に見立てた猫を対峙させていますが、
猫の方は伸びをする様子からも全く戦う意思がないというわけで、「甍上の休戦」としたわけです。
ハトは仲裁にやってきた平和の印で、主題のダメ押しです。
吉備路ののんびりとした空気を、チャゲを使って表したみたわけです。
このようにチャゲはたくさんの絵に登場し、
様々な役を演じてくれる名俳優だったことがよく分かります。
こちらも合わせて、どうぞ
チャゲが登場する美術の散歩道の記事はこちらです