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第51回『猫のギャラリー』 其の7 フェルメールの絵に忍び込んだの巻 ①

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真冬に始まった「猫のギャラリー」も早や7回目、季節も真夏を迎えようとしています。

今回からは2回に渡り、私の「名画のパロディ」の中でもよく知られている
『フェルメールの絵に忍び込んだ猫たち』のシリーズを紹介しましょう。

およそ子どもはおろか動物さえ出てこないフェルメールの絵に猫を登場させるという
前代未聞、大胆不敵なこのシリーズですが、
これまでの「猫のギャラリー」で紹介した我が家の飼い猫たちも頻繁に登場しますので、
彼らのことを思い出しながら、楽しんでいただければ幸いです。

『フェルメールの絵に忍び込んだ猫たち』のシリーズが生まれたきっかけは、
ある年の横浜髙島屋での個展に出品したハガキサイズのミニアチュール作品でした。
その絵はその年の家内の誕生日に送った絵だったので、非売にして参考作品として出品したものでした。

題名は《窓辺で手紙を読む女・ただし猫のいる》というもので、
フェルメールの代表作のひとつである《窓辺で手紙を読む女》(写真1)のパロディです。

写真1 窓辺で手紙を読む女

構図を人物中心にトリミングし、原作の女性の横顔を家内にすげ替え、
右わきに飼い猫のチャゲを入れた構図です。
壁には私が描いた風景画が掛かっています。(写真2)

写真2 窓辺で手紙を読む女 ただし猫のいる ハガキ

この絵を見て気に入ってくれたあるファンの方が、
「このアイディア面白いから、フェルメールの他の絵でもやってみてください。」という宿題を
私に課したのです。

最初はできるかどうか不安で、面倒なことになったなと思ったのですが、
次第に面白いものができるかもしれないと前向きに思うようになり、
こうしてこのシリーズがスタートしました。

名画のパロディにも様々なパターンがありますが、
このシリーズでは原画のイメージを大事にしようと思いました。
フェルメールの絵なら、それはやはり画面を満たす柔らかい光と静けさです。
そこで改めてフェルメールの絵を見直すと、自然と光源でもある窓辺に目が行きました。
ここをトリミングすればフェルメールらしさが担保でき、
窓辺は猫も大好きな場所なのでしっくり来るのではないかと直感しました。

次はそのねらいを達成できそうな候補作を探す作業です。
当然窓辺が描かれた作品に限定されます。
いくつかの候補作の中から私が最初に選んだのは《手紙を書く女と召使い》という絵でした。(写真3)

写真3 手紙を書く婦人と召使

この絵はフェルメール作品の中でとりわけ有名なものではありませんが、
私自身はかなり気に入っていて、
手紙に集中する婦人と外の様子に気を取られている召使いの対照が面白いと思っていました。

この絵を縦40㎝×横20㎝のキャンバスにトリミングして模写し、
そこに2匹の猫を入れたのが《召使いのいる窓辺》です。(写真4)

写真4 召使いのいる窓辺

窓辺にいるのはムクですが、床に居てムクを窺う猫は絵本からの引用です。

『フェルメールの絵に忍び込んだ猫たち』のシリーズの記念すべき第1作ですから、
アートガーデンでの個展のDMにも使いました。

次に目を付けたのは《地理学者》です。(写真5)

写真5 地理学者

《地理学者》は男性がモデルの珍しい作品で、彼は日本のどてらのような衣装を身にまとっています。
当時オランダは日本と交易をしていた唯一の西欧先進国でしたから、
日本の物が出回っていたのかもしれません。

この絵を2対1のキャンバスにトリミングすると、地理学者の顔がかなりカットされます。
顔をカットするのは抵抗がありますが、
あくまで猫が主役であることを知らせるにはやむを得ない処置と判断しました。

《地理学者の窓辺》の主役の猫はここでもムクです。
窓の外の気配に何やら気を取られている様子を描きました。(写真6)

写真6 地理学者のいる窓辺

三つめはフェルメール作品の中ではあまり知られていない
《中断されたレッスン》という絵です。(写真7)

写真7 中断されたレッスン

この絵の評価は難しいのですが、画面左半分、すなわち窓辺と背もたれ椅子、
そして卓上の静物の描写は秀逸だと思います。
そこで思い切って人物を全く排除して窓辺と背もたれ椅子だけをトリミングしました。

窓辺の猫はやはりムクですが、
これまで飼った猫の中ではムクが一番窓辺を好んだので、どうしてもこうなるのです。(写真8)

ムクも本当は外に出たかったのかもしれませんね。

写真8 背もたれ椅子のある窓辺

この作品、シリーズ中でもとりわけ完成度が高いと思うのですが、皆さんいかがでしょうか。

4作目は《ヴァージナルの前に立つ女》にチャレンジしました。(写真9)

写真9 ヴァージナルの前に立つ女

《ヴァージナルの前に立つ女》は晩年の作で、明るい画面が特徴です。
女性のスカートの描写が印象的だったので、体の半分を入れました。
ムクは床に置いて、窓辺には架空の子猫を描きました。
壁の影と重なる子猫とムクを結ぶ見えない視線がこの絵のポイントです。

《楽器を弾く婦人のいる窓辺》は画面の中心部を白壁が占めるというかなり大胆な構図です。(写真10)

写真10 楽器を弾く婦人のいる窓辺

こうして最初の4点が完成し、
アートガーデンの個展に勢ぞろいすることになりました。
この趣向はかなり気に入っていたので、大判の絵ハガキを作り、販売しました。
この個展では結局、最初の《召使のいる窓辺》と最後の《楽器を弾く婦人のいる窓辺》が売れました。

次の横浜髙島屋の個展では残った2点だけでは寂しいので、新作を2点描きました。
5作目に選んだのは再び《窓辺で手紙を読む女》です。(写真11)

写真11 窓辺で手紙を読む女②

やはりこの作品はフェルメールの代表作のひとつですから、華があります。
この絵のパロディが加わると、私のシリーズにも重みが出ると考えました。
原作の完成度も高いので、この絵の模写には力が入りました。

《手紙を読む婦人のいる窓辺》の窓辺にはシルエットの美しいゴロ太を入れ、
婦人の顔をぎりぎりにトリミングしました。(写真12)

写真12 手紙を読む婦人のいる窓辺

構図を含め、この作品はシリーズ中の白眉になったと自負しています。

6作目は《士官と笑う女》です。
遠近法が極端に誇張された初期の絵ですが、フェルメールらしさがよく出た絵だと思います。(写真13)

写真13 士官と笑う女

この絵の窓辺をトリミングするとちょうど士官のみが残ります。
そこへ多少無理をして2匹の猫を入れました、
1匹は窓の上をつたうムクで、もう1匹は士官の座る椅子によじ登ろうとする架空の猫です。(写真14)

写真14 士官のいる窓辺

人物の後ろ姿が大きく入ることで、かなり迫力のある画面になったと思います。

これらの6点は結局すべて売れたのですが、
描いた時期が異なるので、一堂に会したことはありません。
今では大判の絵ハガキのセットで在りし日の姿を偲んでいます。
また原画を大胆にトリミングすることで、全く別の絵が生み出せることに気付けたのは収穫でした。

このシリーズが完結した後に、協力してくれた猫たちに記念になる絵を残したいと思い、
このシリーズの楽屋裏として描いたのが《猫たちといるフェルメール風室内》です。
元にした絵は再び《手紙を書く婦人と召使い》です。(写真15)

写真15 手紙を書く婦人と召使②

このころ東京にフェルメール・センター銀座という
フェルメールの原寸大複製画を展示するギャラリーができ、学生を連れた研修旅行で訪れたのですが、
《手紙を書く婦人と召使い》の室内の一角を忠実に再現した部屋があり、
写真撮影OKだったので、私が召使のポーズをしてゼミ生に写真を撮ってもらいました。

その写真から生まれたのが《猫たちといるフェルメール風室内》です。(写真16)

写真16 猫たちといるフェルメール風室内

シリーズの絵には登場しない作者が緊張した面持ちでポーズをとり、
シリーズの絵で様々なポーズをして演技していた猫たちは、
楽屋裏ですっかりくつろいでいるという設定です。

登場している猫たちはゴロ太とムクとチャゲですが、

チャゲだけは子猫時代の姿にして想像で描いています。
チャゲの子猫時代を知りたいという私の願望がそうさせたのでしょう。

写真17 猫たちといるフェルメール風室内・部分①

実はこのシリーズはこの6作で終わるはずだったのですが、
諸般の事情でしばらくしてから復活します。
そのあたりのことを次回はお話ししたいと思います。

写真18 猫たちといるフェルメール風室内・部分②

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