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画家・泉谷淑夫のオフィシャルサイト

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「幻視」

Gallery暦 -卯月- 2017

《幻視》

画像をクリックするとモニタのサイズに合わせて全体像が表示されます。

 

《幻視》の部分図。クリックすると拡大してご覧いただけます。

 

4月1日はエイプリル・フールです。

この日は「午前中ならうそをついてもよい」ということになっていて、
大人も子供も家族や友人をちょっとしたうそでだましてから、
「うそだよ!」と言って、
相手が引っかかったことや引っかけられたことを笑い合うという、
他愛もない一日なのです。

しかしこの日を除けば、
人をだますことは基本的にいけないことで、
だまされて喜ぶ人はいません。

だまされると、
たいがいの人は悔しくなったり、
憤ったり、相手に不信感を持ったりします。
つまりうそは相手に精神的ダメージを与え、
うそをついた人の価値を下げるので、
よくないとされるわけです。

このうそが平然とまかり通っているのは、
どこかの国の政治の世界だけと言ったら、言いすぎでしょうか(笑)。

ところでうそには「相手を楽しくさせるうそ」もあることを、
皆さんはご存知でしょうか。
それは視覚的にだます「うそ」です。
人間は精神的にだまされると怒りますが、
視覚的にだまされると、なぜか喜ぶのです。
そこに錯視を使った造形「だまし絵」が成り立ち、
支持される理由があります。
近年人気と評価が高まっているアルチンボルドや歌川国芳、
以前から知られているエッシャー、ダリなどがこの手の造形の達人です。

彼らの「だまし絵」はそのからくりがわかっていても、
ついつい画面に見入って首をかしげてしまいがちです。
かく言う私も「だまし絵」は大好きで、
随分研究もしてきましたし、描いてもきました。
自分でやってみると案外難しく、
良いアイディアはそう簡単には浮かばないものです。
しかし努力の甲斐あって、
いくつかの「だまし絵」を創り出すことができました。
今回はそれらの中から見られた方の反応が最も強かった作品《幻視》を紹介します。

画像をよく見てください。
皆さんには何が描かれているように見えますか?
多くの人は「モナ・リザの顔」と答えるでしょう。
しかしよく見てください。
本当にモナ・リザの顔でしょうか。

実はモナ・リザの顔はどこにも描かれてはいません。

描かれているのは、ぼやっとした人影ばかりで、多くは女性の立ち姿や座った姿です。
数えてみると7人、
右上のパラソルを差した女性のひざ元の赤ちゃんを入れれば8人です。
この女性の左側の人物はたぶん赤ちゃんを覗き込んでいるのでしょう。
左側の立ち姿の二人はそれぞれ籠を下げています。
その隣の女性はソファーに座っています。
右手前の女性はおそらく長い髪の少女の母親で、
子供の頭を抱きながら、左手で前方を指さす少女に耳を傾けています。

じっくりと見ていけばこのような情景が見えるはずなのですが、
多くの人は最初に「モナ・リザ」の顔を認識してしまうと、
真の姿はなかなか見えてきません。
この思い込みが何かのきっかけで覆され、
実態が見えてくると、がぜんこの絵に興味が湧いてくるようです。

なぜ自分はだまされてしまったのか、
このだまし絵のからくりは何なのかを突き止めたくなるからです。

やがて仕掛けに納得すると、いい経験をしたという満足感が表情に現れてきます。
どうやら視覚的にだまされる経験は、人間の知性を心地よく刺激するようです。

だまし絵には、実は重要な意義が隠されています。
それは常識にとらわれないものの見方や、
「AでもありBでもある」という両義的なものの見方に目が開かれ、
ものごとを相対的にとらえる視点を持てるようになることです。

思い込みはとかく不幸な結果をもたらします。
自分の目と脳を柔軟にすることは、
今後ますます重視されるのではないでしょうか。

泉谷 淑夫

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