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第36回「動物絵本・その2」
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今回は再び動物絵本の登場です。
私の絵本コレクションの中でも動物絵本はかなり多いので、どれを取り上げるかで悩みます。
厳選の結果、日本のもの5冊と外国のもの2冊を紹介することにします。
どれも動物へのアプローチが個性豊かな絵本ばかりです。
最初は幼児絵本『うしろにいるのだあれ みずべのなかま』(新風舎)です。(写真1)
この絵本は授業等で「絵本のメディア性」の話をする時、よく取り上げます。
絵本のメディア性の中でも、
特に「めくる」と「絵の連続」に焦点を当てて解説するのに都合がいいのです。
内容は主人公のカバ君が身近な仲間を順に紹介していくという構成です。
ただしその仲間が最初に登場する時は体の一部分しか見えないので、
読み手は限られた情報から推理していくことになります。
次のページをめくると答えが分る仕組みです。
これを繰り返す内に「めくる」ことが楽しくなり、「絵の連続」を実感することになるのです。
読み聞かせも私が主人公のカバ君の声色でやります。
ポイントはテキストで繰り返される「うしろにいるのだあれ」を読んだ後に、
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受講者に答えを求めるのです。
ヒントは画面の端に出ていますから、よく見れば分かります。(写真2,3)
答えが帰ってこない時は「だあれ」を繰返します。
そうやって皆で楽しみながら読み進めていくのです。
これが幼児絵本のいいところです。
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2022/03/bs-2204-03.jpg)
ある動物だけが2画面にわたり登場しますが、その意味を考えさせたり、
単純化された絵の中の工夫を発見させたり、
最後の場面に込められた「自然界の共生」や「一蓮托生の運命」について考えさせたりします。
オチは言えませんが、きっと温かい気持ちになれます。
次も幼児絵本で「ちいさなかがくのとも」シリーズの一冊
『とりのこもりうた』(福音館書店)です。(写真4)
木坂涼の作で、絵は夏目義一さんが担当していますから、幼児絵本といえどもとても写実的です。
鳥たちは人間と同じように夜眠るのですが、
「どこで眠るのか」「どんな風に眠るのか」という私たちの疑問に答える内容です。
夕暮れ時の公園の樹々の上では、
葉を隠れ蓑にして無数の鳥が枝に止まったまま眠りにつこうとしています。(写真5)
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郊外ではシラサギが民家の松の樹の上で眠りについています。
水鳥たちは水面に浮かびながら眠ります。(写真6)
![](https://windandcloud.net/wp-content/uploads/2022/03/bs-2204-06.jpg)
テキストは子守唄のようになっていて、最後は「ねんねんむう」という言葉が繰り返されます。
きっとこの絵本を読み聞かせてもらっている子どもたちは、
何回目かの「ねんねんむう」を聞いた後、心地よく眠りに堕ちるのではないでしょうか。
次第に暗くなっていく絵の色調が、誘眠効果に一役買っていることは間違いありません。
三冊目は動物たちの眠りをテーマにしている点や写実的な描写が前作と共通しています。
舟崎靖子:作、建石修志:絵による『もりでみつけたおともだち』(偕成社)です。(写真7)
物語は、皆が寝静まる夜に活動するフクロウの子どもは孤独を感じますが、
夜に輝く月、夜に咲く花、夜も流れる河などを発見することで、
夜の森の中にも「ともだち」が一杯いることに気づく話です。
建石修志氏の絵は『小さな版型の絵本』の回でも紹介しましたが、妖しげな雰囲気と精緻な描写が特徴です。
この絵本のイラストはすべて白黒ですが、夜の光を見事に捉えた精緻な描写です。
しかし怪しげな雰囲気はかなり抑えられています。
子ども向けの絵本と言うことで、その辺りはセーブしたのでしょうか。
それでも森の樹々や動物たちの描写を見ると妙に生々しく象徴的で、
やはり建石カラーは出ています。(写真8,9,10)
建石氏の絵に魅力を感じる私にとって、この絵本は貴重な“画集”でもあるのです。
四冊目は、近年大ブレークしたヒグチユウコの『すきになったら』(ブロンズ新社)です。(写真11)
皆さんは表紙の絵を見て、きっと「少女の恋の話」を想像するでしょう。
そして相手は美少年に違いないと。
実は裏表紙に恋の相手は登場しています。
シュールが大好きな作者はそんな期待を見事に裏切るのです。
なんと少女の恋の相手は巨大なワニなのです!(写真12)
この絵本、すべて見開きの一枚絵で構成され、
徐々に仲睦まじくなっていく二人?の様子が描かれていきます。(写真13,14,15)
その何とも言えない雰囲気と共に、
ヒグチユウコの描くワニのリアルさに皆さんも驚くのではないでしょうか。
私は自身の絵画制作のテーマを「美しい驚き」と称していますが、
ヒグチユウコもまちがいなく「美しい驚き」の描き手でしょう。
しかし最後の場面には少し引く人がいるかもしれません。
ワニと人間の組み合わせという絵本をもうひとつ紹介しましょう。
ユーモアとウィットに富んだ五味太郎の
『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ』(偕成社)です。(写真16)
絵も話も単純ですが、十分に楽しませてくれます。
歯医者をこわごわ訪れたワニと、
ワニを恐る恐る治療する歯医者の絶妙なやり取りが全編に展開されます。
見開きの左右のページで同じセリフが繰り返され、
それに合わせた二人?のリアクションが見どころです。(写真17,18,19)
五味太郎のキャラクター作りの上手さには定評がありますが、
この絵本でもワニと歯医者さんのデザインは極上の仕上がりです。
精緻な描写だけが必ずしも「リアルさ」を感じさせるわけではないことを、この絵本は教えてくれます。
外国の絵本の1冊目は
バージニア・グロスマン:作、シルビア・ロング:絵、ぬくみちほ:訳の『大地のうさぎたち』(パロル舎)です。(写真20)
この絵本は数がテーマで、ページをめくる度に登場する兎が1匹から10匹まで増えていきます。
面白いのは兎たちがアメリカの先住民族であるインディアンに擬人化され、
軽妙な数え唄に乗せて10の部族の暮らしが紹介されていくところです。
画面はかなり横長で、見開きが全編余白付きの一枚絵で構成されています。
ここではのろしの場面や語り部の場面、祭事の場面(写真21,22,23)などを紹介しますが、
いずれも味わい深い絵としての魅力を湛えています。
インディアンの生活を、兎の姿を借りて表す意図はどこにあるのでしょう。
私はその方が先住民たちの自然との強い結びつきや素朴で無垢なイメージを伝えやすいからだと思いますが、
いかがでしょう。
外国の絵本の2冊目は絵本で犯人捜しをするという、ちょっと変わった趣向の絵本です。
タイトルもズバリ『はんにんはだれ?』(金の星舎)で、H・クレスウェル:作、C・ブラウン:絵、
もとはまえ:訳です。(写真24)
物語は動物たちが暮らす小さな村で王女様の指輪の盗難騒ぎが起こり、
ハツカネズミの子どものテイリーとトムが盗まれた指輪を偶然見つけ、
4人の容疑者の中から真犯人を見つけ出すというものです。
さらに4人の容疑者も大事なものを盗まれるという事件が起こり、
この展開の中で読者にも犯人捜しのチャンスが与えられます。
それは盗まれた物を容疑者の家の中から探すことで、うそを言っている容疑者を割り出すのです。
ただしこの絵本の絵は線の粗密で明暗を表すハッチングを駆使した細密描法ですから、
よほど目を凝らさないと、お目当ての物は見つかりません。(写真25,26,27)
私もチャレンジしましたが、何とかそれらを見つけ出し犯人を当てることができました。
そして改めて読み返すと、犯人は最初から登場していることにも気づけました。