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第11回「変わった額縁の話・Ⅱ」

『美術の散歩道』は今月も「変わった額縁の話」です。

前回は定年退職を期に、大きな祭壇額をゲットしたという私の道楽話にお付き合いいただきましたが、今回も引き続き祭壇額についてお話したいと思います。

祭壇額は本来宗教画に用いるものですが、何故か私が描く羊の絵に合うのです。特に月と組み合わせた夜の情景にはぴったりです。
西洋の絵では羊は伝統的にキリスト教と関連付けられてきましたが、羊が持っている穏やかで従順な性質やどこか神秘的な雰囲気が信仰心や宗教的なものと結びつくのかもしれません。

最初に前回紹介した小型の祭壇額の実例を紹介しましょう。ベルリンの国立美術館にあるマンテーニャの聖母子画です。(写真1参照)

マンテーニャの小型祭壇画

生硬な印象のマンテーニャの作品にあって、優しさを感じさせてくれる小品です。私のお気に入りの聖母子画で、個人の礼拝用にぴったりな感じです。

私の持っている小型の祭壇額もこの仲間と言ってよいでしょう。(写真2、3参照)

祭壇額2
祭壇額3

いずれもサムホール・サイズ用で、決して大きくはないのですが、どちらもかなり堅牢で風格のある額縁です。

このようなゴツイ額縁にどんな絵を入れたらよいかを考える時、絵の方もそれに負けない強いものと思いがちですが、実は逆で、色彩の強い厚塗りの絵などはケンカしてしまって合わないのです。かといって穏やかな風景画のようなものではやはり物足りないのです。

結論から言うと額縁の主張が強いだけに、絵の内容はやはりちょっと変わった感じで、できれば光の効果を生かした絵、しかし描き方は抑え目でやさしいもの、が合うようです。つまり「押さば、引け」が額合わせのコツなのです。

というわけで私の祭壇額収集が始まるのです。私の羊の絵に合うことは分かっているので、よいものがあれば予算と折り合うかぎり買うことにしています。

そんな中、倉敷のある画廊で開かれていた変わった額縁の展示会で、奈良在住の額師・ガドロ氏と出会ったのです。

氏の作った額縁には最初から惹かれるものがありました。なぜ私の絵に合うかというと、話してみて分かったのですが、実は二人は同い年で、共通の好きな作家がドイツ・ロマン派のフリードリヒだったのです。フリードリヒは私の絵の原点ですから、これでお互い妙に納得し合ったというわけです。

展示会にはサイズの小さなものが多くあり、値段も折り合える範囲だったので、気に入った祭壇額をまとめ買いしました。

それらの内、現在手元にあるのがこれらの2点です。(写真4,5参照)

祭壇額4
祭壇額5

それぞれ画面は祭壇額4が2Lサイズで、5がハガキ・サイズの小さなものですが、なかなか主張は強いでしょう。

この仲間のもう1点はすでに手元にはありませんが、絵の入った状態のものを紹介しておきます。(写真6参照)

祭壇額6

月ではなく、昼間の牧歌的な情景にしたのは、この祭壇額が横長で、中にアーチ型の枠が入っているので、優しい内容が合うと判断し、羊の親子を描くことしました。

この出会いが縁で、注文額も頼みました。(写真7参照)

祭壇額7

これは珍しい正方形の祭壇額で、かなり外見がゴツイので、それを少し弱めるために中にアーチ型の枠を入れてもらったのです。アーチ型の枠についてはいずれ詳しく触れる予定ですが、実は私のツボなのです。この形を見ると何故か創作欲が湧いてきます。

そんな私のツボを強く推した額との出会いもありました。それが富山県に絵の指導に行った時に手に入れた古びた額で、なんと二つ窓の祭壇額で、しかも窓の形がアーチ型なのです。(写真8参照)

祭壇額8

これは私の額縁コレクションの中でも貴重なので、宝物のひとつになりました。中に納める絵の構想はまだ決まっていませんが、いつか皆さんに見てもらえたらと思っています。

ところでガドロ氏には宮井さんという弟子がいて、独立し定期的に展示会も開いています。宮井さんの創作額はより自由で斬新なデザインが特徴で、私のコレクションにも何点か入っています。

宮井さんは私が変わった額のコレクターだと知って、一度私のアトリエを訪れ、所蔵の変形額の三分の二ほどを写真に撮って行きました。理由は私の好みを研究することだそうです。その時は熱心な方だなと思ったくらいでしたが、やがてこのことが大きなサプライズに結びつきました。2018年の誕生日(10月13日)に倉敷国際ホテルで岡山大学の教え子たちが定年退職のお祝い会を開いてくれたのですが、な、なんとその時の記念品の一つがオリジナル・デザインの祭壇額2点で、それがいずれも宮井さん制作のものだったのです。(写真9,10参照)

祭壇額9
祭壇額10

これには驚きました!教え子たちって私のことをよく研究しているんですね。私が変わった額縁のコレクターであることは公言していましたが、まさか宮井さんにオリジナル祭壇額の制作を依頼していたとは、完全に1本取られました。

この2点も素敵なデザインで私の宝物です。こうして私の定年退職は前回のものと合わせ、素晴らしい祭壇額に囲まれて、幸せ気分だったというわけです。


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