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第81回『 マイ・コレクション/ 変わったデザインのネクタイピン ~その5 特別なものたち~』

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新年がやってきました。
皆さん、あけましておめでとうございます。

今年は干支の馬にちなんで、勢いよく駆け抜けられたらと思います。
というのも私の教員生活もいよいよ今年度で最後となる可能性が高いからです。
大阪芸大では客員教授は73歳になる年が最終年という規定です。私は昨年10月で73歳になりましたが、学部の三つの講義の他に大学院の博士課程と修士課程の学生指導も担当しているので、その人たちが在学中は責任上途中で辞めるわけには行かないのです。現段階ではその辺りがはっきりと見通せないので、微妙な言い方をしているわけです。

それから絵の方では私の主宰するグループ展『陽のあたる岡』が第15回の記念展を迎えます。
思えば前回の第10回記念展はコロナに直撃され、わずか二日間で終了を余儀なくされました。その時の私の特別集中展示も一陽会本部からの講師を呼んでの講評会も吹っ飛びました。今回は改めて『陽のあたる岡』の現在地を皆さんにお伝えしたいと思います。

もうひとつ、本来は昨年11月に予定されていた横浜髙島屋での個展を今年の11月にやります。
同所での前回の個展の後、休む間もなく三つの個展を開催し、都合1年間に4回個展をやるという無謀のつけが回って体調を崩したため、開催を1年延ばしてもらいました。
今回は横浜髙島屋での13回目の開催となります。「13」は言わずと知れた私のラッキーナンバーですから、何としても成功させたいのです。新作だけでなくいくつかの重要な旧作も展示しようかと考えています。今年も1年間応援よろしくお願いします。

さてマイ・コレクションのネクタイピン編もいよいよラストです。

今回は「特別なものたち」と題して、とっておきのタイピンや思い入れの強いタイピンを紹介しましょう。

最初は特別お気に入りの道具類の中から選んだこれです。(写真1)

写真1

何だか分かりますか?なんと手錠です。鍵までちゃんと付いています。私は幸い手錠をかけられたことはありませんが、江戸時代に「手鎖50日の刑」という罰があって、人気浮世絵師の歌麿も幕府の出版規制に触れてそれをくらっています。手錠をかけられたまま50日過ごすというのはかなり辛いと思います。背中が痒くてもかけないですし、トイレなどでも不自由します。その点これはタイピンですからウィットで済むわけです。ちなみにこのタイピン、遠くから見てメガネと思った人が近づいて見て「あっ」と声を上げることはよくあります。

次はパイプです。(写真2)

写真2

このタイピンが私にとって特別なのは、敬愛するマグリットの《イメージの裏切り・これはパイプではない》という有名な絵を思い出させるからです。この絵は鑑賞の授業でマグリットを扱う時は必ず紹介しているので、私にはマグリットの代名詞のような気がしています。つまりこのタイピンをしている時はマグリットの気分なのです。

三つ目はステッキと帽子の組み合わせです。(写真3)

写真3

このタイピンからは紳士の散歩のイメージが連想されます。人間を表さなくても人間やその行動をイメージさせられるところが素晴らしいと思います。マグリットの絵に出てくる紳士が被っているのは山高帽ですが、ステッキも持っています。そんなところからこのタイピンにもマグリットの影が感じられるのです。

四つ目は謎かけのようなタイピンです。(写真4)

写真4

これだけ見てこれが何なのかを分かる人は相当の愛煙家でしょう。実はこれ、ライターの底なんです。ライター用のガスを入れ替えるための回転式底ネジの取っ手が付いているので私は気づきました。文字も読んでみると「デュポン」と書いてあります。フランスのデュポン社製の高級ガス・ライターだったんですね。それにしてもこんなすごいデザインを思い付くなんて、底なしの発想力に感服です。このタイピンが何たるかを知った人は皆一様に驚きます。

五つ目もユーモアとウィットが効いたすぐれものです。(写真5)

写真5

フルコース・ディナーをいただく時のナイフとフォークのセットです。当然それにふさわしい場に着けていくのですが、同席される皆さんはすぐに気づいて褒めてくれます。その場の雰囲気を和ませる役割を小さなタイピンが果たしてくれるのです。変わったデザインのタイピンがコミュニケーション・ツールであることが分かっていただけると思います。それにしてもリアルな造りでしょう。

六つ目は鍵ですがただの鍵ではありません。(写真6)

写真6

よく見て下さい。「Jesus」という文字が付いているでしょう。「Jesus」とはイエス・キリストのことです。つまりこの鍵はイエスが一番弟子のペテロに与えた「天国の鍵」なのです。これを特別と言わずして何を特別と言うのでしょうか。このタイピンを着けている時は「私は天国に入れる鍵を持っているのだ。」という不遜な気分になれるのです(笑)。

七つ目はある不倫ドラマを思い出してしまいがちなタイピンです。(写真7)

写真7

モチーフはホテルの鍵です。近年はカード・キーがほとんどですが、私がヨーロッパやアメリカを旅行した時代はホテルの鍵と言えばこれでした。キー・ホルダーが四角く透明な樹脂製で、何とも言えない格調の高さがありました。このタイピン、鍵は実際と同じように穴から吊るされて稼働しますし、503号室というルーム・ナンバーも入っていてリアルです。ちなみに不倫ドラマとは『年下の男』で、私が思い出すのは高橋克典扮する若い男が風吹ジュン演じるほか弁屋のおばさんを、二人だけのホテルのエレベーターの中で「部屋取ってもいいですか?」と強引に口説くシーンです(笑)。

ここからはテーマが「私らしさを表すものたち」に替ります。
変わったデザインのタイピンは貴重なコミュニケーション・ツールですから、「私らしさを表すもの」ならよりいいわけです。

最初はこれです。見ての通り絵の具のチューブです。(写真8)

写真8

中から絵の具が飛び出しています。私は画家であると同時に美術教師ですから、これは私のイメージにぴったりです。チューブには絵の具メーカーの「SAKURA」の文字が入っていて、とても親近感が湧きます。このタイピンは中学校で新入生を迎える最初の授業の時や、外での研究発表の時などによく着けて行きました。気づいた人はたいがい説明しなくてもこちらの意図を汲んでくれました。つまり阿吽のコミュニケーションが成立していたわけです。

二つ目はこれです。羊のタイピンです。(写真9)

写真9

説明の必要はないでしょう。私は「羊の画家」と呼ばれていますから、これは私のために造ってくれたようなものです。ちなみに羊のタイピンというのはなかなかないので、これは希少品でもあります。羊という動物は日本ではあまり馴染みがないのでしょうか。ところでこのタイピン、横バーが付いているので私のコレクション条件からは外れています。しかし羊のタイピンを持っていなかった私は、この横バーは地平線であるということにして購入した次第です(笑)。

そんな状況を察してか、しばらくすると私の親しい教え子の女性が私の還暦祝いに羊のタイピンを贈ってくれました。(写真10)

写真10

重要なのはこのタイピンは既製品ではないということです。プロの職人に頼んで造ってもらった一品ものなのです。しかもこの子羊たちと背景の山は私の描いた《双星》という小品から取ったもので、その絵の持ち主は彼女です。「世界に一つしかない私のためのタイピン」というわけです。そんなことが起きるので「持つべきものは教え子」という言葉にも実感がこもるわけです。

もうひとつ贈られたタイピンで嬉しかったものがあります。
空高く打ち上げられた宇宙ロケットです。(写真11)

写真11

宇宙ロケットは近年の私の絵にしばしば登場するモチーフですから、「私を表すもの」に他なりません。このタイピンも教え子たちからの誕生日プレゼントですが、嬉しかったのはこのタイピンが既製品でありながら私が見たこともなかったもので、しかも絵の主要なモチーフを使っていて、デザインも素晴らしかったことです。

前にも書きましたが、私にタイピンを贈るのは本当にハードルが高いのです。気に入るかどうか以前にコレクションにあるかないかを考えなければいけないからです。これまで気を遣わせてしまった皆様にはこの場を借りてお詫びいたします。

さて次はこれです。鳥の飛翔する姿を装飾的にデザインしたものです。(写真12)

写真12

私は羊以外では鳥をよく描くので、これも「私らしさ」のひとつです。私が描いてきた鳥はハト、カモメ、カラス、ワシ、トビなどですが、空を自力で自由に飛べる鳥たちは憧れの的です。前回、鳥をかたどったタイピン類を紹介しましたが、シンメトリーの形状で金色に輝くこの鳥は雄大な飛翔をイメージさせて、ひと際特別感があります。そんなところから卒業式や結婚式などによく着けて行きました。

次は珍しいモチーフのものです。

何と流れ星をデザインしたタイピンです。(写真13)

写真13

何故これが「私らしいもの」かと言うと、私はロマンチストだからです。自称しているわけではなく、人から何度か言われたことがあります。そう言われてみれば描く絵は空想的ですし、常に自由を求める心情や行動はロマンチストのものかもしれません。そもそも私がこんな絵が描きたいと強い出会いを感じたのが、ドイツ・ロマン派のフリードリヒの絵でしたからね。それにしても星形にはロマンがありますね。

次もロマンチストつながりで、大粒の涙を流す眼がデザインされたタイピンです。(写真14)

写真14

これがどうして「私らしさ」かと言うと、実は私、意外に涙もろいんです。ドラマなどを見ていて急に涙が出てくることがあります。それは年を取ったせいだよという人もいます。そう言えば若い頃は涙もろいわけではありませんでした。しかしそれを年のせいにしてしまったら、涙も単なる生理現象になってしまいます。ですから私がロマンチストだから涙もろいんだということにしておいた方が、何かと都合がいいのです(笑)。ちなみに中央の目玉は宝石ではありません。緑色をしたまがい物です。

次はモチーフ的にもデザイン的にも意味的にもとても気に入っているものです。(写真15)

写真15

モチーフはトランプのカードで、4種類のマークとジョーカーが組み合わさっています。この中でジョーカーは何にでもなれる切り札です。ジョーカーの意味は「道化師、または洒落や冗談を言って周りを楽しませる人」です。私も最近はだいぶ落ち着いてきましたが、長らくジョーカー・タイプの人間でした。特に中学校で教えていた頃は、その傾向が強かったものです。切り札にはなれませんでしたが、周りを楽しませることはある程度できたように思っています。皆さんがどう思われるかはわかりませんが。

さていよいよ残り三つとなりました。
私が「私らしさ」を形成する上で強い影響を及ぼした人たちに関するタイピンを紹介します。

最初は大学と大学院の指導教官であった国領先生から贈られたタイピンです。(写真16)

写真16

国領先生は私が横浜国立大学に入学すると同時に教授に昇進し、画壇でも頭角を現していきました。私が大学で過ごした4年間は、まさに国領先生の上昇期で身近にいるだけで大きな刺激を受けました。3年時から先生のゼミに所属しましたが、ちょくちょく研究室にお邪魔して、制作中の絵や貴重な画集を見せてもらったりしていました。私が国領先生の絵のファンだと分かってからは、銀座でやった個展の図録などもいただきました。こう書くと二人の関係は気楽な仲のように思われるかもしれませんが、実はいつも国領先生の前では緊張していました。先生には厳しい面もあることは分かっていましたから、「親しき仲にも礼儀あり」を心掛けていたのです。先生は弟子を育てるというタイプではなく後姿で導くタイプでしたから、日展の中にあっても個性的な画風を貫いた姿勢から大切なことを学ばせていただきました。そんな先生が後に、私がタイピンを集めていることを知り贈って下さったのがこのタイピンなのです。装飾的なデザインの意味はいまだによく分かりませんが、このタイピンを見ると国領先生の人柄を思い出すのです。威厳がありながら繊細な気配りもできる、そんなお人柄でした。

次のタイピンは国領先生の絵に関連するタイピンです。(写真17)

写真17

箱根の彫刻の森美術館のミュージアムショップで購入したものですが、先生の《海風の風景》という絵に登場する二人の女性の顔をレリーフに象ったものです。絵とは顔の向きが逆ですが、独特の憂いを含んだような表情が再現されています。表面が銀メッキされていて、重みと風格があるタイピンですから、コンクールで大きな賞を受賞した時の表彰式などに着けていったものです。

さて最後はこれです。何だか分かりますか?(写真18)

写真18

実はモチーフは蛇なのです。組み合わさっている紫色の石はアメジスト(紫水晶)です。ちなみにアメジストは2月の誕生石です。蛇年の2月生まれと言えば、私の家内です。つまりこのタイピンは家内の化身なのです。実は二人とも蛇は苦手なんですが、このタイピンは特別です。既製品でこんなものがあったことが奇跡です。実は家内とは大学時代に知り合い、国領先生夫妻の仲人で1976年の3月に結婚しました。二人とも23歳という若さでした。ということは今年が2026年ですから、3月にはめでたく金婚式を迎えるのです!結婚して50年の月日が過ぎたという実感はありませんが、二人で作った思い出は山ほどあり、一生懸命生きてきたことだけは間違いありません。マイ・コレクションのタイピン編の最後がのろけ話になってしまいましたが、今年私たちが金婚式を迎えるということでお許しいただければ幸いです。

マイコレクションはテーマを変えてまだこの先も続きますので、引き続きお付き合いください。
ところで私のタイピン・コレクションの総数はいくつだったのでしょう?
興味ある方はさかのぼって数えてみてください(笑)。

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