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「春の競演」

Gallery暦 -卯月- 2019

《春の競演》

画像をクリックするとモニタのサイズに合わせて全体像が表示されます。

 

4月の風景は花粉症の私にはぼやっとしていて、クリアーな感じがしませんが(笑)
好きな風景はあります。
それは一斉に野を覆い尽くすレンゲの花のある風景です。
私の住む総社市では毎年4月末に「レンゲ祭り」という行事を催しています。
吉備路のシンボル・備中五重塔の周辺の田畑が
一面レンゲの花で覆われるその様は圧巻です。

観光客も春の陽射しに誘われて大勢やってきます。
ただ難しいのは桜と同様に開花時期が一定していないことです。
近くに住む私は好きな時にレンゲの花を見られるので、
開花時期を心配することはありませんが、関係者の方は大変でしょう。
また、この季節には一足早く菜の花が満開となります。
菜の花畑が一面黄色に染まる様は、やはり春ならではの祝祭です。

というわけで、今回はレンゲの花と菜の花を描いた小さな作品を紹介します。
タイトルはズバリ《春の競演》です。
奥に菜の花畑、手前にレンゲ畑という何とも贅沢なシテュエーションです。
場所は吉備路ではなく、総社市の北のはずれです。
福井新田と言う所にあった古い農家をリフォームして住んでいた頃は、
側の県道を車でよく走っていましたから、
私にとっては馴染みの風景であり、好きな風景の一つでした。
時々車を止めては、写真を撮ったものです。

この場所を絵に描こうと思った時、まず横長の画面にしようと決めました。
それは春の穏やかでのんびりした気分を表したかったからです。
次に迷ったのは、画面の大きさです。
広がりのある風景ですから、
少し大きなキャンバスに描くことも考えました。
しかしレンゲの花の可憐さを考えると
小さな画面の方が、感じが出るのではと思い直し、
10×20㎝というキャンバスを選びました。
このサイズはハガキを横に寝かせて、5センチほど延ばしたくらいですから、
その小ささはご理解いただけると思います。
しかしこれくらい小さいと、逆にヤル気も出るから不思議です。

レンゲの花は桜のように花そのものは大変小さいのですが、
それが大量に集まって集合体となった時、
俄然魅力を発揮します。
しかしあくまでその展開は地面ですから、
風景としての立体感や量感には欠けます。
そこで画面の上半分に何か立体的なものが必要になってきます。
それがないと、どうしても風景全体が単調でのっぺりしたものになってしまうからです。
ところがこの場所には元々魅力的なモチーフがあったのです。
それが連樹です。
連樹とは、2本の樹がまるで繋がっているように見える樹のことで、時々見かけます。
この連樹は私のお気に入りで、他の絵にも何度か登場しています。
連樹に加えて、農道へ上がる左側の細い坂道や、背景の木々、
そして空に浮かぶ雲などが加わって、
暖かくのんびりとしたこの季節の雰囲気が画面に醸し出されるのです。
そしてレンゲの背後の菜の花の黄色が、レンゲの花の紫色と響き合って、
心地良い眼福がもたらされるのです。

田園は私にとっての心の故郷です。
いつもそのような場所の近くで暮らしてきました。
昔はレンゲの花を摘んで、花冠を器用に編む女の子がいました。
近年は失われた風物詩の一つですが、そんな光景が見られなくなったのも、
今を生きる私たちが自然との豊かな交感を失ってしまったことの証なのかもしれません。
私たちの頭上で華やかな景観を見せてくれる桜もいいですが、
地面に這いつくばりながら、素朴に春を演出してくれるレンゲや菜の花にも、
ぜひ眼を留めてもらいたいものです。

泉谷 淑夫

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