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「夢の椅子」

Gallery 暦 -文月- 2015

《夢の椅子》
《夢の椅子》

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まだ梅雨明けしていませんが、

そろそろ抜けるような青空と風に舞う夏雲が見たい
という方のために、

そして猫好きの皆さんのために、

今回はとっておきの一枚を紹介します。

その名も《夢の椅子》!

この絵は我が愛猫チャゲ(茶毛)が
お気に入りの椅子の上で気持ちよさそうに寝ている場面を描いています。

「気持ちよさそうに」という感じを出すために、
背景を風が吹き抜ける夏空にしました。
ゆったりと流れる時間を気球で、
自由な気分をカモメで表しました。

この絵の中では、チャゲにとっての「至福の夢空間」が永遠に続くのです。

チャゲは野良猫で、
かなり大きくなってから我が家に猛烈な就職活動を仕掛けてきました。

人間を怖がらず、懐に飛び込んでくるような猛アタックで、
「僕を飼ってくれよ!お願いだよ!」と腹を見せて、
何度もゴロニャンをしました。

猫は本来警戒心が強く、とても臆病です。
チャゲも本当は怖かったけれど、勇気を振り絞って、
必死の営業活動をしたのだと思います。

何しろその時のチャゲは、
ガリガリに痩せて、
頭の大きさばかりが目立つ、
何とも不細工で、哀れな姿だったのです。

もう野良生活の限界だったのでしょう。
私たち夫婦も、
そんなチャゲの様子を見て不憫に思いましたが、
外見的にはまったく可愛くなかったので、
とても飼う気にはなれず、
最初は邪険にしていました。
しかし何度追い払っても、
チャゲはへこたれず、我が家の入り口にやってくるのです。

三日目になり、雨も激しく振っていたので、
かわいそうになり、2階の物干し台の隅にダンボールを置いてやりました。
そうしたら翌日、その中で眠っているチャゲの姿がありました。
このまま死んでしまうのかな、と様子を見ているうちに、
我が家の前で死なれても困るなと思い、
結局お皿にミルクを入れて、傍に置いておきました。

こうなったら「お前を飼ってやるよ」と内定通知を出したようなものです。
少しのミルクでは足りるはずもなく、
その後チャゲは猛烈な食欲で私たちを驚かせました。

こうしてチャゲは晴れて泉谷家に就職が決まったのです。

我が家では野良の場合はすぐに医者に連れて行きます。
病気にかかっていないかをチェックするためです。
案の定、チャゲは猫エイズという重い病気にかかっていました。
猫エイズは伝染性の不治の病ですが、
長生きできる場合もあるということで、
私たちはチャゲの旺盛な食欲に期待することにしました。
ただし伝染するので、
その時点ですでに飼っていたムク(無垢)とは一緒にすることはできず、
チャゲは、夜は別棟のアトリエで寝かせるという半野良生活をさせることにしました。

最初は母屋にも入りたがりましたが、
たしなめられている内に、頭のいいチャゲは事情を察したようで、
その後は母屋には自分から入ろうとはせず、
私たちが特別な時に入れてやっても、
落ち着かずにすぐに出て行こうとしました。

その代わり、
出入り自由のアトリエはチャゲにとってはマイホーム。
好きな時にやってきては私に甘え、
絵を描いているとひざに乗ってきて、
長い時間くつろいだり、
私がマッサージ器にかかると、
胸のところに乗ってきて一緒に眠ったり、
すっかりなついてくれました。

そうすると不思議なもので
チャゲの顔が変わってきたのです。
およそ可愛くはなかった顔がやさしく愛らしくなり、
体も太ってきて、頭とのバランスも取れてきました。
人懐こいので、近所の人たちにも可愛がられ、
すっかり人気者になりました。

結局、チャゲは我が家で10年ほど過ごし、
最期は猫エイズの症状が悪化して、
いよいよ最後かと覚悟していた私たちの前から、
ひっそりと姿を消したのです。
2013年の秋のことでした。

《夢の椅子》に描かれた椅子は、
アトリエで私が使っていた回転椅子です。
きっと私の匂いも染み付いていて、
チャゲにとってはもっとも安心して眠れる場所だったのだと思います。

最期をきちんと看取ってやれなかったのは、
今も心残りですが、
チャゲがまだ元気だった頃の絵なので、
安らかな気持ちで思い出に浸れる一枚です。

泉谷 淑夫

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