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「秋の杜」

Gallery 暦 -霜月- 2016

《秋の杜》
《秋の杜》

画像をクリックするとブラウザのサイズに合わせて全体像が表示されます。

 

 

11月は稲刈りによって田園の稲穂の輝きが消え、
それに代わって野山の紅葉が輝きだす季節です。

空気も乾燥して澄んでくるので、
周囲の景色がくっきりと見えるようになり、
とりわけ陽射しが強い日には、
秋の色彩の美しさは倍加します。
ですから車を走らせていても、
ついつい眼が景色を追いがちです。

そんな紅葉ファンの私ですが、
私は名所の紅葉よりも、
身近にある何気ない場所の紅葉が好きで、
そのような場所をこれまで何度も絵にしてきました。

そこで今回は、私のお気に入りの「秋の一枚」をご紹介します。

絵の題名は《秋の杜》。

横長の画面に杜の全体像を納めた構図なので、
大きい作品と思われる方が多いのではないでしょうか。
実はこの作品、縦15㎝、横35㎝という小型の変形サイズなのです。

額付きの状態も合わせて紹介したのは、
この絵が意外に小さいことを分かってもらいたかったからです。

人物画や静物画と違って、
風景画の対象は広がりのある空間ですから、
その一部を切り取って画面に納めるのが常です。
そのため構図の変化を一番楽しめるのが風景画と言ってもよいかもしれません。

私は絵の制作において、
最も構図を重視しているので、
風景画が性に合っているように思います。

ところで、描こうとする風景を小さな画面に納める時は、
普通どうすると思いますか?

普通は、画面に全部を納めるのは無理があるので、
対象の一部をトリミングして描くのではないでしょうか。
その方が小さな画面を大きく見せることもできるし、
描きたいものもはっきりするからです。

しかし私は時々この方法と逆のことをやってみたくなるのです。
つまり小さな画面に広大な空間を納めてしまうという方法です。
もちろんその場合は条件があります。
対象となる風景にパノラマ的な魅力があること、
また全体を描くことによって、
自然の壮大さや力強さが表現できそうなことです。
そのような風景を見つけると、
その全体を何としても画面に納めたくなるのです。

《秋の杜》に描かれた場所は我が家の近くにあり、
この杜の真向かいは作山古墳です。
ですから私の描いた杜も、
「形から見て古墳じゃないの?」という人もいます。

その真偽の程はわかりませんが、
この杜が何か独特の雰囲気を持っていることは間違いありません。
私もそれに惹かれたからこそ、
絵にしてみたのです。

最初はこの杜に通じる細い農道に眼を着け、
紅葉する前の風景をF4号に描きました。
その後紅葉の時期に、今度はモノクロームのパステルで写生しました。

その時にふと感じたのです。
「この杜はただものではないぞ」と。

そう思ったらこの紅葉した杜全体を絵にしてみたくなったのです。
その方がこの杜の持っている独特の雰囲気が出ると思ったからです。

私にとってこの杜は「一つの生き物」のようです。
自然のエネルギーを地中からも空中からもたっぷりと吸い込んで、
『風の谷のナウシカ』の巨大な王蟲のように
いつか動き出すのではないか、とさえ思えます。
そのエネルギーの発露が最も感じられるのが、
秋の紅葉シーズンなのです。

名所の飼いならされた「紅葉」の美しさとは異なる、
野生的で奔放、力強く、不気味でさえある「もうひとつの紅葉」を、
私はこの杜に見ているのかもしれません。

泉谷 淑夫

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