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第63回「年賀状デザインのギャラリー 〜半世紀の軌跡と思い出〜 その7・戌年」

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7月になりました。

この原稿を書いている時点(6月下旬)でようやく梅雨入りしました。
天候が不順なので、体調管理が難しい時期です。
皆さんもお気を付けください。

さて今回は戌年ですから、干支の動物は犬です。
犬を飼っている人は多く、
『忠犬ハチ公』『名犬ラッシー』『スヌーピー』などで親しまれてもいますから、
デザインのネタには困らないでしょう。

私は犬を飼ったことはありませんが、ふたつほど犬にまつわる思い出があります。
ひとつは大学時代の話で、夏休みの1か月間、犬の散歩のアルバイトというのをやったことがあります。

当時はバイトの募集広告が駅の掲示板に貼ってあって、
それを見て電話したところ、面談を経て採用となりました。
犬の散歩と言ってもお金持ちからの依頼ではなく、
野犬狩りで捕われた後に引き取った3匹の犬を散歩させるという、
犬からしたら救いの神のようなご夫婦からの依頼で、
1か月ご主人が家を留守にすることから発生したバイトでした。

1匹が先導役で、リードを着けられた他の2匹を私が連れてついて行くのですが、
必ず散歩の途中でおしっこをします。
ですから一度遅れた時は大変で、
私が着いた時には待ちきれずにちびってしまいました。
1ヶ月1日も休まずに行ったら、ボーナスが出ました。
依頼主のご夫婦は今どうされているのでしょうか。

もうひとつは横浜国大附属中学校に勤務していた頃の話で、
当時私は学年主任でしたが、あるクラスの不登校の子の指導で家庭訪問をしました。

玄関のドアを開けて家に入るや否や2匹の犬に飛びかかられ、
私は廊下に押し倒されてしまいました。
すると大きい方の犬が私の体に乗って、大きな舌を私の口に入れて嘗め回してきたのです。
まさか初めてのお宅で飼い犬にディープキスをされるとは。
母親が笑いながら申し訳なさそうに言うことには、
「熱烈歓迎のアクションなんですよ。」とのこと。

幸いケガもなく無事済んだのでよかったのですが、
ペットは飼い主の気持ちを代行するので、
その後の話し合いでは不登校の子も心を開いてくれ、復学するきっかけとなりました。

さて最初の戌年は1982年です。

大学院研修の2年目の年で、修士論文の作成に追われていました。
この年の修論作成にかけるエネルギーと集中度は、
大学4年時の卒業制作の時に匹敵すると思います。

絵の方もそれなりに頑張っていて、
『第1回鈴廣かまぼこ板絵コンクール』で上から2番目の銀鈴賞を、
また西湘地区の若手育成プロジェクト『第3回新星展』では第1席を、
さらに初出品した『第28回一陽展』でも特待賞をそれぞれ受賞しています。

この中で「かまぼこ板絵コンクール」に応募したことは、
後に私がミニアチュール制作をするきっかけになったので、
重要な経験でした。

こうして見ると、30歳になる年に20代後半のスランプから抜け出しつつあることが分かります。

さてこの年の私の年賀状はかなり気合が入って、丁寧な仕上げになっています。(写真1)

写真1 1982年

この頃は名画のパロディ・シリーズを手掛けていたので、
ゴーギャンの《アレアレア》が下敷きです。
タヒチの男女に扮した私たちを描いていますが、
妻の笛の音に私が耳をふさいでいる場面です。
手前の犬は「ワンダフル」などと駄洒落を言っています。

この年に来た年賀状の1枚目は、
以前にも登場した横浜国大の同期生A君のものです。(写真2)

写真2 横浜国大同期生A君

よく太った犬が正月に酒を浴びる図です。
これではますます太るしかないですね。
下の足跡がユーモラスで、文字のデザインも凝っていますね。

2枚目はこれも常連の大住中卒業生のMさんのものです。(写真3)

写真3 大住中卒業生Mさん

いつもながらMさんの作品の「ほのぼのとした味」には魅了されますが、
今回の犬はとても愛らしいですね。
普段は寡黙なAさんが、下のメッセージで駄洒落を言っているのは意外でした。

3枚目は一陽会の彫刻部のT先生のものです。(写真4)

写真4 一陽会彫刻部T先生

T先生とは私が20代の頃、厚木美術協会というグループでご一緒したことがあり、
その縁で一陽会に入ってからも親しくさせていただきました。
年賀状は中東の狛犬が煉瓦塀の上に描かれています。
巧みな版画技法で、煉瓦塀の質感がしっかり伝わってきますね。

4枚目は前回も登場した日本画家のSさんのものです。(写真5)

写真5 日本画家Sさん

今回は夜の海がモチーフで、
その静けさや穏やかさがシルクスクリーンの深い色彩でよく表されています。
右上の三日月が効いていますね。
これも永久保存版の1枚です。

次の戌年は1994年です。

この年も大きな節目の年でした。
一番は何と言っても9年間勤めた横浜国大附属横浜中から
岡山大学教育学部への転進です。
人生の大きな歯車が回った感じです。
それに合わせて絵の方でも鑑賞教育の方でも大きなことがありました。

まず絵の方では初めて第37回安井賞展に入選したことです。
前年一陽会で会員に推挙され、
そこで会の推薦を受けて初めて安井賞展にチャレンジすることができたのですが、
運よく審査を通りました。

安井賞展は全国を巡回しますが、春の尾道市立美術館開催時には、
岡山大学の学生数名が新しく赴任する教員の作品を見ようと
同美術館まで足を運んでくれたことは赴任後に知りました。
その勢いで秋には『第1回金山平三賞記念美術展』にも出品することができました。
また岡山県で初めて私の作品が展示された
『現代洋画選抜展・内面の世界を描く』が開催されたのもこの年でした。

鑑賞教育の方では月刊『美育文化』誌上で
私の『名画をめぐる表現連鎖・考』の連載(全11回)が4月から始まり、
前半はミレーの《落穂拾い》、後半は北斎の《神奈川沖浪裏》に焦点を当てた論文が掲載されました。

こうして見ると、この年が私の『二兎追流人生』の本格的な始まりだったと言えそうです。

この年の私の年賀状はちょっと変わったデザインです。(写真6)

写真6 1994年

両手を組んで犬の影絵を作る遊びがありますが、
これは右手だけで犬に影絵を作っているのです。
それで「つ、つりそう…」となったわけです。
皆さんもこのポーズができるかやってみてください。
ポーズとは別に私は右利きですから、右手をリアルに描くのも結構大変でした。

この年に来た年賀状の1枚目は、
横浜国大附属中の最後の教え子M君のものです。(写真7)

写真7 横浜国大在学生M君

M君とは1年間の授業だけの付き合いでしたが、
年賀状をくれたことからして、私を慕ってくれていたようです。
一見稚拙な犬の絵に見えますが、
現代の前衛アーティストを思わせるような、
大胆かつ軽妙な絵になっています。
カラフルな輪郭線が効いていますが、
先に抽象的な色面をつくっておいて、そこから犬の形を切り抜いたのでしょうか。

2枚目は常連の大住中卒業生Y(旧姓M)さんのものです。(写真8)

写真8 大住中卒業生Yさん

今回は犬のぬいぐるみのシルエットをシンプルな版画で表しています。
Mさんは「メルヘンの世界の住人」のような世間離れしたところがありましたから、
結婚は少し意外でしたが、
年賀状を見ると本質が変わっていないことが分かり、安心しました。

3枚目も常連の一陽会彫刻部のT先生のものです。(写真9)

写真9 一陽会彫刻部T先生

12年前と同じモチーフを使っていますが、
今回は中東の狛犬を正面からアップで捉えています。
陰影が効いて、何か狛犬が話しかけているようにも見えます。

4枚目は大住中卒業生のNさんです。(写真10)

写真10 大住中卒業生Nさん

Nさんを担任したのは中3の1年間だけでしたが、
私になついてくれて、クラス作りにも協力的でした。
そのNさんが年賀状のモチーフにしたのは、
あのクレヨンしんちゃんと飼い犬のシロ。
この頃から一大ブームになっていましたね。
それだけ各キャラクターのインパクトが強かったわけで、
年賀状に引用しても目立ち具合が半端じゃないですね。

5枚目は常連の大住中卒業生Aさんのものです。(写真11)

写真11 大住中卒業生Aさん

いつもながらの巧みなハッチング技法で犬2匹と男性が描かれています。
映画のワンシーンのようにも見えますが、私には出所が分かりません。
誰か知っている方がいたら教えてください。
要するに意味は分からないが、絵の魅力で選んだ1枚なのです。
それにしてもこの男性、見覚えが…。

2006年の戌年は、私たち夫婦の結婚30周年の年でしたので、
記念に10日間のイギリス・スコットランド旅行をしました。
この旅はとても楽しく充実した内容でした。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーにテート美術館、
念願のストーンヘンジと美しいコッツウォルズ、
エジンバラのナショナル・モニュメントに
グラスゴーのマッキントッシュ・ハウスなど、
たくさんの刺激をもらいました。
現地でお世話になった附属横浜中卒業生のMさんとK君夫妻には、感謝、感謝です。

9月16日の竹久夢二の誕生日には、岡山県の夢二郷土美術館の文化講演会に呼ばれ、
『比較鑑賞で楽しむ夢二式美人』のスライドショーを披露しました。
会には夢二ゆかりの方々も見えられ、
最前列で聞かれていたので、大変緊張したことを覚えています。

また博雅堂の『お話名画シリーズ』の第18巻として『琳派をめぐる三つの旅』を上梓しました。
後にこの本を読んだテレビ東京のディレクターが、
『美の巨人たち』の光琳《紅白梅図》屏風の回に、
構図の解説者として私を登用するきっかけになったのですから、
自説はどこかで公にしておくものだと思いました。

そんな中、悲しいこともダブルでありました。
私の絵の活動をいつも応援してくれていた二人の恩人、
私の母と家内の父がこの年に逝去しました。
天寿を全うしたとはいえ、少なからずショックでした。

という訳でこの年の私の年賀状はありません。

この年に来た年賀状の1枚目は、岡山県の彫刻家Sさんのものです。(写真12)

写真12 岡山県の彫刻家Sさん

このところ立て続けに登場しているので、その作風はすっかりお馴染みでしょう。
今回は犬の全身をキュビスム風に捉えて、立体感を強調しています。
モチーフが変わっても自分流の表現が貫き通せるのは、
造形手法がしっかりしている証拠でしょう。

2枚目は、これもお馴染みの岡山県の美術科教員Hさんのものです。(写真13)

写真13 岡山県美術科教員Hさん

月と流れ星が見える宇宙空間を背景に、
天により近い場所に座したこの犬は何を訴えているのでしょうか。
私には作者の究極の孤独、孤高の姿のようにも思えます。

3枚目はこれもお馴染みの岡山大学卒業生のKさんのものです。(写真14)

写真14 岡山大学卒業生Kさん

Kさんは毎回違うアイディアで勝負してきます。
今回は心理テストのようなあいまいな造形です。
ぶち模様の犬のシルエットに見えますが、
よく見るとA HAPPY NEW YEARの文字が隠されているのです。
卒業後は美術教師をやっているので、忙しくてなかなか絵が描けないようですが、
毎年の年賀状を見ていると絵も期待してしまいます。

4枚目は私の絵のファンの一人、横浜在住のDさんのものです。(写真15)

写真15 横浜市の知人Dさん

Dさんは絵心もあり、
この見事な狛犬の置物の絵にもその実力が遺憾なく発揮されています。
全身を入れるのではなく、あえてトリミングし、
頭部の迫力を強調した構図センスはなかなかのものです。

5枚目は常連の国立大学教員A先生のものです。(写真16)

写真16 国立大学教員A先生

今回も古代神殿風の怪しげな廃墟が舞台で、
背中に大きな器を載せた犬の石像が座してこちらを見ています。
この絵の背景にある物語を読み解くことはできませんでしたが、
奥の三つの不気味な目と言い、謎こそがこの絵の生命でしょう。

この年は豊作でしたので、6枚目を紹介します。

これも常連の岡山県の美術科教員T君のものです。(写真17)

写真17 岡山県美術科教員T君

両手で犬の影絵を作る話を1994年のところでしましたが、これが本来のものです。
猫にやって見せてもしょうもないというナンセンス・ギャグにしたところがとぼけていていいですね。
背景には縁起のいい初夢の「一富士、二鷹、三茄子」が描かれています。

2018年の戌年の出来事は、
何と言っても岡山大学の定年退職と大阪芸術大学への教授就任でしょう。

岡山大学には24年の長きに渡って勤務し、
入試委員長や副学部長、
附属幼稚園長などの要職も経験させてもらいました。

その間に絵の制作・発表でも美術鑑賞教育の研究・実践でも
全国的な活躍の場を得ることができ、
今から思うと一番良い時代を過ごさせてもらった感があります。
定年前の最後の2,3年は何となく寂しさもありましたが、
それも大阪芸大へ客員教授として通った関係でかなり紛らわすことができました。

そして定年後の人生設計を考えていた頃、
大阪芸大から専任教授としてのお誘いがあり、
片道3時間強のハードな通勤と週3日の勤務へとチェンジする道を選んだわけです。
60代は体力も充実していたので、この選択に迷いはなかったですね。

またこの年には横浜国大教育学部のOB会である友松会が
創立130周年の記念大会を大磯プリンス・ホテルで開催し、
私がゲスト・スピーカーとして呼ばれ、
『私の絵画制作と鑑賞教育』と題した講演をしました。
母校に少しは恩返しができたかなと思えたのと同時に、
私にとって「13」という数字はやはりラッキー・ナンバーなんだと再認識した次第です。

秋には倉敷国際ホテルを会場に岡山大学のゼミ生を中心に私の教え子たちが、
定年退職の記念パーティーを開いてくれました。
この時の引き出物として上梓したのが私の画業50周年記念エッセー集『二兎追流』だったのです。
私の半世紀に及ぶ人生をこんな形でまとめることができ、
教え子たちには感謝しかありません。

この年の私の年賀状は説明するのが恥ずかしい1枚です。(写真18)

写真18 2018年

この頃、国がにわかに英語教育に力を入れ出したことに対する私なりの皮肉ですが、
骨は英語で「BONE」、
この綴りの中に「ONE」が入っていることと、
犬の鳴き声と言えば「ワン!」に決まっていることに目を付けたアイディアです。
ただ「ワン!」と吠えただけの飼い犬を、
「まあ、おりこう」とほめている奥さんのボケがポイントです(笑)。

この年に来た年賀状の1枚目は、
倉敷市の美術家で評論活動もするTさんのものです。(写真19)

写真19 倉敷市美術科Tさん

Tさんとは私の岡山での初個展の時、倉敷市立美術館で知り合ったのですが、
個展に出品した《雲の伝説》という絵をとても高く評価してくれ、
この絵に関する評論を地元の新聞紙上に載せてくれました。
年賀状の方は勇猛そうなブルドッグの全身を力強く表しています。
文面の内容と合わせて、制作への意欲がみなぎっている感じです。

2枚目は岡山大学卒業生のGさんのものです。(写真20)

写真20 岡山大学卒業生Gさん

Gさんは岡山の人には珍しく、
思ったことをストレートに表現するタイプで、
いつも問題意識を持っています。
年賀状にもそんな人柄がよく出ていて、その迫力に圧倒されます。
ドーベルマンの顔だけをアップで納めた構図とハッチングによる立体感の表出が、
強い印象を生み出しています。
一方、ドーベルマンの雄姿に客観的に迫った作もあります。

3枚目は常連の岡山県美術科教員Hさんのものです。(写真21)

写真21 岡山県美術科教員Hさん

こちらは余白も生かし、きりっとした犬の一瞬の表情を捉えています。
その姿は見えを切る歌舞伎役者のようで、
この絵は役者大首絵のような風格を備えています。

4枚目は岡山大学大学院生のYさんのものです。(写真22)

写真21 岡山大学大学院生Yさん

Yさんは大学院で初めて出会った学生で、魅力的な動物画を描く人でした。
修了後は縁遠くなってしまいましたが、
最近はどんな絵を描いているのか気になります。
年賀状の犬の絵も服を着ていて、独特の雰囲気を持っています。
この犬何を考えているのだろうと、こちらも考えてしまいます。

最後の5枚目は岡山大学の在校生Kさんのものです。(写真23)

写真23 岡山大学在校生Kさん

Kさんは小学校課程の学生でしたが、
絵の実力は中学校課程の学生と遜色のないものを持っていました。
年賀状でもその力が存分に発揮されています。
「月に吠える犬」という設定で、
犬の体の中に初日の出と富士山という吉祥図が装飾的に描かれています。
全体的な色彩効果と満月の中の文字の配置も含めて高いレベルに到達しています。

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