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第67回「年賀状デザインのギャラリー 〜半世紀の軌跡と思い出〜 その11・午年」

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10月もそれなりに暑さが残りましたが、だいぶ過ごしやすくなってきました。
やはり地球は回っているんですね(笑)。

私はと言えば今年も11月に岡山での個展を控えているので、少し緊張感のある11月のスタートです。
昨年はひどい風邪をひいて体調を大きく崩したため、
初めて個展会場(神奈川県平塚市)に足を運べないという事態に陥りました。
できれば今年は巳年の年賀状デザインを済ませて、余裕をもって個展を迎えたいと思います。

さて今回は午年が対象なので干支の動物は馬ですが、
この「午」という字が「牛」に似ているので、何だかややこしいですね。
馬は見た目にも美しく、走る姿も格好いいので、
数ある動物の中でも好印象を持たれているのではないかと思いますが、
その割にはキャラクター化された馬というのもあまり思いつきません。

競馬のサラブレッドやトロイの木馬、空駆ける天馬であるペガサスあたりしか浮かんできませんね。
私は映画の西部劇が好きですから、その世界では必ずカウボーイが馬に乗るシーンが出てきますけどね。

最初の午年は1978年です。

この年は絵の方では『県展選抜展』に出品したことくらいです。
これは前年に神奈川県美術展で大賞を受賞したことから招待出品に応じたものですが、
まだ20代前半でしたから、有頂天になっていた時期です。

教育の方では新任4年目の年で、無我夢中で最初の卒業生を出した後、
その反省をもとにスキルアップしようと初めて学級経営に本腰を入れ始めました。
春休みから新入生を迎える準備をしたお陰で余裕をもってスタートを切ることができました。
結局このクラスは行事等で優勝することはなかったのですが、
男女の仲も良く、優秀なリーダーの元まとまりがあって、とても明るい雰囲気でした。
私が担任したクラスの中では最も手が掛からなかったクラスと言えます。
そういう意味で教員としての楽しさを味わわせてくれたメンバーに感謝です。

ところでこの年には年賀状デザインはまだ始まっていなかったので、お見せするものがありません。
この年の暮れに翌年の未年の年賀状デザイン(前回紹介)を始めたのが最初なのです。
しかし色々の方から年賀状はいただいたので紹介させていただきます。

この年に来た年賀状の1枚目は江南高校の同級生だったY君のものです。(写真1)

写真1 高校時代の同級生Y君

Y君は高校の美術部の仲間で、学部は違えど大学も一緒だったので、
その後もずっとお付き合いが続いています。
年賀状はおもちゃのような木馬が竹馬をやっているお正月らしいデザインです。
木馬と竹馬をかけた辺りがにくいですね。
全体にY君の温かい人柄を感じさせる雰囲気が漂っています。

2枚目は大住中卒業生のW君のものです。(写真2)

写真2 大住中卒業生のW君

W君は前回も登場しましたが、
今回も前回同様髪の長い女性の横顔と干支の動物の組み合わせで、
素敵なデザインに仕上げています。
髪の長い女性がW君の好みなのか、
当時思いを秘めていた女性のイメージなのかは分かりませんが、
ちょっと気になるところです。
髪の上を走って女性に近づこうとする馬はW君なのでしょうか。

3枚目は大住中在学生のT君のものです。(写真3)

写真3 大住中在校生のT君

T君は美術部員で当時3年生、受験を控えていました。
T君にはお笑いのセンスがあり、皆の人気者でしたが、
大住中での最初の3年間、授業中の私のギャグにもよく付き合ってくれました。
「入試がウマくいきますように」と駄洒落を言って馬に乗っているのはT君自身で、
この自画像は本人によく似ています。

4枚目は常連の厚木美術協会の彫刻家T先生のものです。(写真4)

写真4 一陽会彫刻部のT先生

前回同様おそらくは息子さんをモチーフにした木版画です。
子どもの健やかな成長を願う父親としての愛情が画面いっぱいに溢れていて、
T先生の温厚な人柄が偲ばれる一枚です。

次の午年は1990年です。

この年は絵の方では6回目となる個展を平塚画廊で初めて開きました。
ただこの頃はまだ絵もそれほど売れず、インパクトは残せませんでした。

一陽会の方でも苦しかった会友時代で、
会員推挙は1993年ですから、まさに「夜明け前」です。

教育の方では横浜国大附属横浜中学校で初めて担任を外れ、
教育実習主任として働いていました。
この年は副担任として担任のサポート役もやりましたが、
主役ではない働き方の大切さを学べた貴重な1年でした。

この年の私の年賀状は埴輪をモチーフにしました。(写真5)

写真5 1990年

私は埴輪の中では馬型のものが好きだったので、
そこに私と家内も加わろうというアイディアです。
埴輪になれてウキウキの私達とは別に馬型埴輪は迷惑そうですね。

この年に来た年賀状の1枚目は大住中卒業生のAさんのものです。(写真6)

写真6 大住中卒業生のAさん

Aさんはほとんど毎回のように登場していますが、
それだけ私もそのセンスに惚れ込んでいるわけです。
Aさん、今回は回転木馬を使いました。
遊園地の乗り物の中でも回転木馬は華やかでファンタスティックなイメージがありますが、
外側と内側の木馬が重なって見える角度が一番魅力的です。
そこを捉えた構図が見事ですね。

2枚目は迫力のある1枚で、横浜国大の先輩のTさんのものです。(写真7)

写真7 横浜国大の先輩Tさん

シルクスクリーンの技法で縞馬の頭部をアップで捉えています。
白黒表現と縞模様の最高の組み合わせがこの傑作を生んだわけです。
言葉無用の力強い造形が光っています。

3枚目は横浜国大附属中の卒業生Kさんのものです。(写真8)

写真8 横浜国大附属中卒業生のKさん

Kさんを授業で教えたのは3年時の1年間だけでしたが、
卒業後もずっと慕ってくれて個展にも毎回顔を出してくれます。
前の2作と対照的に極限まで単純化した表現でユーモラスな馬を描いてくれました。
それから見落としてならないのは
「A HAPPY NEW YEAR!」の「A」が蹄鉄に「!」が人参になっているところです。

4枚目は大住中卒業生のKさんのものです。(写真9)

写真9 大住中卒業生のKさん

Kさんはリーダーシップを持った聡明な生徒で、
ピアノが特技でしたが、ユーモアもありました。
年賀状も音楽的モチーフで構成しています。
縞馬の模様とピアノの鍵盤を重ねたセンスが光っています。
楽譜の音符の連なりに何か意味があるのかは分かりません。

5枚目は一陽会彫刻部のT先生のものです。(写真10)

写真10 一陽会彫刻部のT先生

以前はお子さんがモチーフでしたが、今回は猫です。
T先生は猫も大理石から彫られるので、猫を飼っていたのでしょう。
ここではテーブルの上に乗った2匹の猫を強い光と影で捉えています。
光と影の対比が猫の神秘性を見事に浮かび上がらせています。

2002年の午年は、大きな収穫がいくつもありました。

まず絵の方では『岡山県美術展』で大賞を受賞しました。
20代での『神奈川県美術展』での大賞受賞に次いで県展での2度目の大賞受賞ですが、
異なる県での大賞受賞というキャリアを持っている作家は珍しいのではないでしょうか。

次に何度も挑んでいた最難関の『小磯良平大賞展』で2席に当たる優秀賞を受賞しました。
賞金額からも私の中ではキャリアハイの結果です。
大賞が取れなかったことは残念でしたが、
入選率が4%という厳しさですから、自分の実力も考えて納得しました。
この受賞が大きな自信になったことは間違いありませんでしたから。

美術教育の方では兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科の教員資格審査で
Dマル合を取得しました。
今ならこれで即教授昇任ですが、当時は美術教育講座の教授ポストが埋まっていたため、
その後4年間も待たされました。
絵の方でも会員推挙に至るまで時間がかかりましたが、どうも私はそういう運命にあるようです(笑)

もうひとつは鑑賞用ビデオ『続・作家シリーズ・創造の原点』全10巻を
NHK出版から世に出したことです。
これは埼玉大学の小澤教授との共著で1997年に刊行したものの続編です。
私の比較鑑賞理論が大きく反映されているので、
現場の先生方に活用してもらえているのは嬉しい限りです。

この年の私の年賀状は画中で家内が言っているように「ウマく逃げた」典型例です。(写真11)

写真11 2002年

馬はまともに描くと結構大変です。
特に頭と体のバランスが難しいのです。
そこで思いついたのがポニーテール!
これなら馬を描かないで馬を暗示することができるわけです。
少女の横顔をアップで捉え、躍動感を出すために手とミカンを加えました。
「あの娘はきっとジャジャ馬だネ」はダメ押しです。

この年に来た年賀状の1枚目は常連の大住中学校卒業生のEさんのものです。(写真12)

写真12 大住中卒業生のEさん

単純化した造形で毎年印象的な作品を送ってくれるEさんですが、
今回の馬は特に素晴らしい出来です。
直線的な処理で疾走する馬のスピード感を見事に出しています。
体に差した1色だけの金色も効いています。
さすが美術部で活躍しただけのことはありますね。

2枚目も常連の岡山大学先輩教員のN先生のものです。(写真13)

写真13 岡山大学先輩教員のN先生

民話の一場面のような絵柄ですが、私には知識がなく詳しいことは分かりません。
馬は飾り付けされているのでしょうか。
馬を引く人も正装しているようです。
たくさんの太い線から成る装飾的な画面がシルクスクリーンの技法で完璧に表現されています。

3枚目はこれまた常連の当時岡山大学大学院生だったKさんのものです。(写真14)

写真14 岡山大学大学院在学生のKさん

Kさんは神話に出てくるような美しい馬の頭部をアップで描いています。
自身の制作でも装飾的な表現を得意にしていたKさんですから、
この馬も楽しんで描いていた様子が伝わってきます。
自分に合った表現を見つけることがやはり一番大事ですね。

4枚目は横浜市美術科教員のM先生のものです。(写真15)

写真15 横浜市美術科教員のM先生

M先生は姉御肌の先輩で、
思い切りの良い言動で美術教育の世界では良く知られた存在でした。
年賀状はいななきながら後ろ足で立ち上がるユニコーン(一角獣)を力強く表しています。
カラフルな色彩も生命力を感じさせます。

5枚目は一陽会絵画部の友人H君のものです。(写真16)

写真16 一陽会絵画部友人のH君

H君は5歳年下ですがしっかり者で、若い時から一陽会の中心で活躍していました。
それだけに途中で退会してしまったのは残念でなりません。
年賀状の方は私と同じで「ウマく逃げた」一例です。
馬を描かずに蹄鉄だけを描いています。
そしてそのU字型が「Uma」のUになっているという落ちです。
文面からはH君がコンクールで頑張っている様子が分かります。

2014年の午年も大きなことが続きました。

まずは出版芸術社刊行の『筒井康隆コレクション』全7巻の装幀・装画を
私が全面的に担当したことです。
以前にも筒井先生のSF小説の表紙に私の絵が使われたことがあり、
その縁で担当編集者が私の絵を筒井先生に推薦したところ、
先生が了承されて進行した企画で、
完結までに3年かかりました。

全集が第1巻から出版されると私の所に厚さが4㎝もある分厚い本が届くのですが、
それを手に取って重さを実感しながら本棚に並べるのが何とも言えない喜びでした。
私の絵はメッセージ性の強い絵ですから、イラストレーションとして使われるのは本望です。
そこで仕掛けたのが背表紙の絵が全て繋がるようにしたことです。
全7巻が揃うと《聖地》という絵の羊群が出現します。
筒井ファンの方がこれに気付いた時の反応はどうだったか、知りたいところです。

次は3年間園長を務めた岡山大学教育学部附属幼稚園の130周年記念事業として、
私の《雲界》という絵の陶板画が永久設置されたことです。
遊戯室の入口に飾られたので、門扉越しに外からでも見えます。
陶板なので雨にも太陽光にも耐えられます。
原画の方は2020年に静岡県伊東市の池田20世紀美術館に所蔵されました。

三つ目は一陽会の創立60周年記念事業として
シンポジウムの司会とコーディネーターを務めたことです。
会場は国立新美術館の講義室。
テーマは『新生・一陽会の未来を語る』としました。
公募団体展の将来が不安視される状況の中で、
還暦を迎えた一陽会の展望を若手作家3名に語ってもらいました。

この年の私の年賀状はかなり凝っています。(写真17)

写真17 2014

描かれているのは暴れ馬に翻弄される敬子さんを見て私が驚いている場面ですが、
この「驚」という字の意味を私なりに図解したものです。
「驚」という字が「敬」と「馬」の組み合わせからできているところに目を付けたわけです。
リアルな馬はルーベンスなどの馬を参照しました。

この年に来た年賀状の1枚目は岡山大学附属学校園教員のY先生のものです。(写真18)

写真18 岡山大学附属学校園教員Y先生

疾走する2頭の馬を白黒の木版画で表しています。
太い輪郭線が馬の力強い生命力を感じさせます。
走っている時の馬の脚の形もよく研究されていることが分かる描写です。
2頭描くことで画面に物語性が生まれていますね。

2枚目は横浜国大附属横浜中保護者のSさんのものです。(写真19)

写真19 横浜国大附属中学校保護者のSさん

Sさんは自分でも絵を描かれる方です。
民芸品の藁でできた馬の全身を描いていますが、
よく見ると画面の形が絵馬になっているようです。
降りしきる雪が画面に静かな時の流れを与えています。

3枚目は常連の岡山県の彫刻家Sさんのものです。(写真20)

写真20 岡山県の彫刻家Sさん

今回もキュビスム風の捉え方で、後ろ足で立ち上がる馬の全身を描いています。
写実表現では使えないか線や形や色を楽しんでいる様子が窺えて、
楽しい作品になっています。

4枚目はこれまた常連の岡山大学卒業生のSさんのものです。(写真21)

写真21 岡山大学卒業生のSさん

満天の星空から舞い降りたペガサスが水を飲んでいる場面のようです。
体の途中が空白になっている意図が私には分かりませんが、
全体的にはファンタスティックな雰囲気がよく出ている佳作だと思います。
Sさんは本当に表現の幅が広いですね。

5枚目のトリは今回も岡山県美術科教員のH先生になりました。(写真22)

写真22 岡山県美術科教員Hさん

今回はサラブレッドの頭部をリアルに描いていますが、
その静かな佇まいとは対照的に、たてがみの上では激しい競馬が行われているようです。
写実と超現実の世界が交錯するH先生の持ち味が全開となっている1枚と言えるでしょう。

さて次回12月はいよいよこのテーマの最終回です。
そして私の苦手な巳年がやってきます。
果たしてどうなることやら。

乞うご期待!

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