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第29回「“絵本の申し子”ウィーズナーの世界」

絵本について語るのは楽しい。

好きな絵本作家について語るのはもっと楽しい!

そんな絵本作家が今日紹介するデイヴィッド・ウィーズナーです。

洗練されたユーモアとウィット、そして類まれな発想力と構成力、描写力、
それらが彼の絵本には溢れています。

まさにウィーズナーは“絵本の申し子”なのです。

もともと文字なしマンガからスタートしたので、文字なし絵本もお手の物。

たくさんの文字なし絵本を出していますが、その紹介はまた別の機会に譲るとして、
今回は文字なし絵本以外の傑作絵本の数々を取り上げます。

写真1『かようびのよる』

最初はデビュー作の『かようびのよる』(福武書店)。(写真1)

この絵本はベストセラーでロングセラーですし、
私も授業や様々な講座で紹介しているので、ご存知の方も多いでしょう。

とにかく衝撃でした。

こんな絵本があるのかとその表現力に驚くとともに、絵本の可能性が一挙に広がった感じがしました。

少し前にオールズバーグの『西風号の遭難』と出会って、絵本の見方が変わった後だっただけに、
私なりの絵本観に確信が持てました。

それは「絵本は子どものためだけではなく、ファンタジーを忘れた大人こそ親しむべきもの」で、
以来私の中ではオールズバーグとウィーズナーは絵本改革の両輪になりました。

『かようびのよる』の見どころはたくさんありますが、私の一押しは以下の二つの見開きです。

写真2『かようびのよる』

一つは家に侵入したカエルたちが眠ってしまったおばあさんを尻目にテレビを見ているシーン。(写真2)

何といってもテレビを光源にした場面設定が秀逸!
恐る恐る様子をうかがっている猫の表情もいい。

この見開きページは中学校の美術の教科書にも載せたほどで、
たくさんのものを私たちに教えてくれます。

もう一つは「事件」後の現場検証のシーン。(写真3)

写真3『かようびのよる』

真剣な顔で調査している刑事もおかしいが、後ろで昨夜の様子を取材陣に得意げに話している作者自身もおかしい。

実はこのシーンには大変な仕掛けが隠されていて、私も最初は気づかずやり過ごしていましたが、
私のティーチング・アシスタントが発見して以後は、必ず授業でも取り上げるようにしています。

さて皆さんは気づかれたでしょうか?

次は『1999年6月29日』(ブックローン出版)という変わった題の絵本。(写真4)

写真4『1999年6月29日』

これは空から巨大な野菜が降ってくるという何ともシュールな設定のお話です。

見所は様々な巨大野菜が風景の中に出現するシーン。(写真5,6)

写真5『1999年6月29日』
写真6『1999年6月29日』

シュルレアリスムの「スケール操作」の手法が見事に使われていて、良質のビジュアルショッキング効果が生み出されています。

私の代表作の一つである《顕現》は、巨大な南瓜と羊群と三日月の組み合わせですが、
この絵本が出た後の作なので、意識下で影響を受けた可能性があるかもしれません。

何故空から野菜が降ってきたのかのオチは、ネタバレになるので秘密です。

きっと笑えます。

写真7『大あらし』

三つめは『大あらし』(ブックローン出版)。(写真7)

この絵本はハリケーンで倒れた巨木で二人の少年が冒険を夢見るところから、
授業では『日米絵本対決』と称して、みやこしあきこ作の『たいふうがくる』との比較鑑賞をしています。

この絵本で皆さんに見てもらいたいのは、何と言ってもウィーズナーの絶妙なトリミングです。

トリミングはぎりぎりまで対象に寄って画面を切り取ることで、
主題を明確にし、場面の臨場感や印象度を高める効果があります。
イラストレーターのロックウェルが得意とした手法ですが、ウィーズナーも負けていません。

例えば最初のシーンでも、会話に出てくるお母さんは袋を抱えた両腕しか描かれていません。

写真8『大あらし』

低い視点で主役の子どもたちの表情を際立たせています。(写真8)

暖炉の傍で家族がくつろぐシーンでも大胆なトリミングで読者の目をくぎ付けにします。

写真9『大あらし』

ウィーズナーは実によく美術史を研究しているので、
この場面はおそらく西洋絵画の「聖家族」のイメージをダブらせていると思われます。(写真9)

そして手前のソファーに隠された仕掛けに気づいた人はきっとニヤッとするはずです。

写真10『アートとマックス』

四つ目はウィーズナーの独壇場ともいえる遊び心満載の一作
『アートとマックス』(BL出版)です。(写真10)

副題に「ゴキゲンなゲイジュツ」とあるように、
「芸術が生まれる過程をダイナミックにそしてユーモラスに描いています。

主人公がカエルとカメレオンというところも意表を突いています。

写真11『アートとマックス』

場面設定における視点の低さはウィーズナー絵本の特徴ですが、
この絵本もそれに徹しています。(写真11)

写真12『アートとマックス』

そして全ページを通して奇抜な展開と色彩の美しさが追求されています。(写真12)

写真13『アートとマックス』

後半の意外な展開も、「線と色彩」という造形の本質を踏まえていて、
アクション・ペインティングを意識したような場面もあり、
ウィーズナーの関心の広さに感心します。(写真13)

写真14『ミスターワッフル!』

五つ目は飼い猫の生態を見事に描いた『ミスターワッフル!』(BL出版)です。(写真14)

この絵本はネコ絵本としても秀逸なので、
授業では『日米ネコ絵本対決』と称して、町田尚子作の『なまえのないねこ』と比較鑑賞しています。

猫はそれまでのウィーズナーの絵本にも登場していたので、
猫を飼ったことのある人なら誰もが、
ウィーズナーが大の猫好きで、猫のことをよく知っているなと思ったはずですが、

この絵本ではまさにウィーズナーの猫理解が大変深いものであることが分かります。

写真15『ミスターワッフル!』

『かようびのよる』と同じく、ほとんどテキストはありませんが、
コマ割りも活用した絵が正確に物語を伝えてくれます。

そして猫の生態を良く掴んだ各場面は迫力に満ち、
写実絵本の力が遺憾なく発揮されています。(写真15)

写真16『ミスターワッフル!』

また原始の時代の洞窟壁画を彷彿させるばかばかしくも壮大に見える場面には、
ウィーズナーのユーモアとウィットが惜しみなく注がれています。(写真16)

この絵本に触れた多くの読者が、ウィーズナーの無尽蔵の構想力に拍手を贈ったのではないでしょうか。

写真17『ぼくにまかせて』

最後はあまり知られていないと思われる絵本
『ぼくにまかせて』(BL出版)を紹介しましょう。(写真17)

私自身も知らなかった絵本で、偶然出会った時には「こんな絵本も描いているんだ」という印象でした。

おそらくウィーズナー自身の少年時代のほろ苦い思い出をベースにしたんだと思いますが、
草野球の他愛のない出来事がウィーズナーの魔術で壮大な一大絵巻に昇華されています。

ポイントはスケール操作で畳みかける場面展開です。(写真18,19)

写真18『ぼくにまかせて』
写真19『ぼくにまかせて』

例によってほとんど文字のない構成ですが、
ウィーズナーは本当に絵で語るのが好きで得意なんだなと再確認した次第です。

ここでは紹介しませんが、もっとマニアックなファン向けには、
『夜がくるまでは』『おぞましいりゅう』(共にBL出版)なんていう珍品もありますので、
気になる方はチェックしてみて下さい。

とにかくウィーズナーはスゴイ!

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