YI

画家・泉谷淑夫のオフィシャルサイト

メニュー
top-img

第72回『 マイ・コレクション/ 絵ハガキ その4〜日本の作家編 ②〜

全ての画像をクリックすると別画面で大きな画像が開きます。
[戻るボタン]で元のページに戻れます。

雨がよく降っていた印象の3月も過ぎました。

我が家の2階のベランダから望む景色も煙っていることが多く、まるで水墨画の世界を見る思いでした。
寒さは和らぎましたが、そんな訳で気分はすっきりしない日々でした。
ただ花粉症は雨のせいか軽く済んでいます。
薬も飲まない日が多いのが例年と違う所です。
この後は寒さから一転、急に暑くなりそうなので体調には気を付けましょう。

さて「マイ・コレクション」のブログも早くも4回目。
今回も日本の作家の絵ハガキを取り上げますが、版画作品が中心です。

最初に取り上げるのは歌川広重(うたがわひろしげ)です。
江戸後期に活躍した浮世絵師で名所絵(めいしょえ)の第一人者です。
しかし珍しい作家ではないので普通に紹介しても面白くありません。

そこで今回は絵ハガキ・コレクターとしてのマニアックな視点から
広重の浮世絵版画を見て行きます。

浮世絵版画は一点ものではないので、同じ図柄の絵が複数存在します。
ただし手摺りの版画なので作品ごとに色が微妙に違っていたりします。
しかしそれとは別にかなり配色が異なるものがあります。
これは色々な浮世絵版画の絵ハガキを集めているうちに気付いたことで、
調べると浮世絵版画には「初摺り」(しょずり)と「後摺り」(あとずり)があることが分かりました。
初摺りは最初に販売するために摺ったものです。
それが売り切れると摩耗した版木を新たに彫り直し、増摺り(ぞうすり)をして追加販売します。
これが後摺りですが、版元は新鮮味を出すために配色を変えたり、
時にはコストを下げるために色数を減らしたりしました。
これらに加えコレクターの購買欲を刺激するという理由もあったでしょう。
図柄が同じでも色が変わると作品の印象が変わります。
初摺りの色もいいけど、後摺りもなかなかいいから一応買っておくか、
というコレクターの心理を突く作戦です。

これらはあくまで販売戦略なので、配色の変更に絵師は必ずしも関わらなかったのではないでしょうか。
版権は版元にあるわけですし、絵師には画料を支払っているので文句は出ません。
おそらく版元と彫師、摺師の間で相談して、配色をどう変更するかを決めていたと思われます。
この相談は販売戦略と同時に一種の再創造のための打ち合わせですから、
当事者たちも楽しかったのではないでしょうか。
難しいのは残された作品から初摺りと後摺りの判断をすることです。
記録が残っている場合は別ですが、それ以外は推測で判断する場合もあります。

では具体例を見て行きましょう。

最初は有名な『東海道五拾三次之内』(とうかいどうごじゅうさんつぎのうち)の《日本橋》です。(写真1)

写真1 日本橋

東海道五拾三次の出発点で、時間は早朝です。

二つをよく比べて見て下さい。違いが分かりますか?

背景の空が異なります。
左は一文字ぼかしのみですが、右は一文字ぼかしが弱まり、たなびく雲が描かれています。
初摺りは左ではないかと推理します。
理由は、左はぱきっとした強い一文字ぼかしによって時間が止まった印象を与えますが、
右はたなびく雲によって静かな動きが生まれているからです。
その方が日本橋の朝の、人々がこれから動き出そうとする状況に
よりふさわしいと思ったのではないでしょうか。
それに初摺りの版木の摩耗が少なければ、空に雲を彫り足すだけで済みますからね。
実は《日本橋》にはもう一種の作品が存在します。(写真2)

写真2 日本橋(変わり版)

すぐに気づかれると思いますが、手前の空間の人の数が大幅に増えています。
これは新たな構図で版を掘り起こしたもので「変わり版」と呼ばれるものです。
人数が増えたことで確かに日本橋の賑わいは伝わってきますが、
朝のしみじみとした情緒は失われてしまいました。
構図には人一倍気をつかう広重が、何故このような改変案を受け入れて絵を描き直したかが、
私には疑問です。

次は『東海道五拾三次之内』の白眉と言われる《蒲原》(かんばら)です。(写真3)

写真3 蒲原

違いはやはり空の処理です。
左は上空を一文字ぼかしで締めていますが、
右は空の下部に濃いぼかしを使い、山並みや家並みを際立たせています。
左は清新な印象、右は深夜の深い静寂とそれぞれに魅力があるので、
この2作の場合は好みが分かれます。
初摺りはおそらく左でしょうが、右の試みも十分に成功していると思います。
皆さんはどちらの《蒲原》が好みですか?

三つ目は広重最晩年の傑作集『名所江戸百景』の《亀戸梅屋敷》(かめいどうめやしき)です。(写真4)

写真4 亀戸梅屋敷

ゴッホが油絵で模写したことでも有名な一作ですが、
極端に前景の梅の木を強調した対比遠近法の構図と強烈な赤い空が印象的です。

2作を比べると、
初摺りと思われる左は梅の木のシルエットが濃く、安定した印象ですが、
右は梅の木のシルエットが淡く、逆に空の上部に黒いぼかしを入れているので、不安定な感じがします。
赤い空は白梅を目立たせるためでしょうが、
後摺りの改変にはこれと言った効果はなかったように思います。

四つ目は『名所江戸百景』の《浅草金龍山》(あさくさきんりゅうざん)です。(写真5)

写真5 浅草金龍山

雷門と大提灯の一部を前景に配し、
奥に雪を被った浅草寺を望む大胆な構図で、白と赤の鮮明な対比が見事です。
この2作はかなり色合いが異なります。

初摺りと思われる左は前景に目が行き、奥の印象は弱められていますが、
右は空を暗くして奥の風景がくっきりし、とりわけ雪の白さが強調されています。
おそらく改変のねらいはここにあったのでしょう。

皆さんはどちらを指示しますか?

五つ目も『名所江戸百景』の《水道橋駿河臺》(すいどうばしするがごう)です。(写真6)

写真6 水道橋駿河臺

『名所江戸百景』の中でも私がとりわけ好きな一作で、この絵を見ると何故か元気が出るんですよね。
大きく配された手前の鯉のぼりの奥に富士山を望む構図は、
広重なりの北斎へのオマージュだと思っています。
《神奈川沖浪裏》(かながわおきなみうら)の北斎の大波を鯉のぼりに変えた趣向でしょう。
この2作では鯉のぼりと河のぼかしの位置が異なっています。

私は初摺りと思われる左の方が河の深さが出ていて、
鯉のぼりも力強さが感じられるのでいいと思います。
ぼかしの位置ひとつで印象が変わるのです。

二人目に取り上げるのは大正から昭和期に新版画運動の旗手として活躍し、
「広重の再来」と称賛された川瀬巴水(かわせはすい)です。

生前の巴水人気は大変なものでしたが、死後は一時的に忘れられます。
しかし海外で再評価が進み、逆輸入の形で日本でも再びブームが起こります。
2000年以降は展覧会も頻繁に行われるようになりました。
当然絵ハガキをゲットする機会も増え、
私がコレクションした巴水の絵ハガキは日本作家では一番多い74枚にもなりました。

その中から5枚を選ぶのは難しいので、
今回は巴水の描いた「雨の情景」に絞って紹介することにします。
現実世界では雨天を好む人は少ないでしょうが、
巴水が絵にすると雨が何とも魅力的に感じられるのです。
おそらく雨が画面に動きと時間の経過をもたらすからではないかと私は考えています。

1枚目は《品川》です。(写真7)

写真7 品川

品川区を流れる目黒川の河口にある漁師町の情景で、
そぼ降る雨の中、立ち話をする二人の女性と橋を渡る職人風の男性が点景人物として描かれ、
画面のアクセントになっています。

向こう岸の家々は暗く沈んでいますが、手前の家の2階には灯りが灯っていて、
この絵に生活感を与えています。
手前の川岸に繋がれた小舟は昔ながらの和船で、
江戸時代の面影が昭和初期にも残っていたことをこの絵は伝えてくれます。

2枚目は《熊本城宇土櫓》(くまもとじょううとやぐら)です。(写真8)

写真8 熊本城宇土櫓

熊本城は江戸時代に築城された名城ですが、熊本地震で被災し現在解体保存工事が行われています。
この絵の雨は風を伴ってより強く吹き付けています。
樹々の間から城が姿を覗かせていますが、風に煽られる樹々の描写が秀逸です。
一人の女性が石垣の前を、傘を斜めに差して急ぎ足で通り過ぎようとしています。
《品川》のしっとりした静けさとは対照的な動の場面です。

3枚目は《新大橋》です。(写真9)

写真9 新大橋

隅田川に架かる新大橋は1923年の関東大震災を逃れた歴史ある橋で、
広重もこの橋をモチーフに《大はしあたけの夕立》として同じ雨の情景を描いています。
この橋の全貌を俯瞰で捉えた広重とは異なり、巴水は橋桁の一部をズームアップし、
垂直に地面を打つ激しい雨の中を必死で人力車を引く車夫の姿を描いています。
雨脚の強さや闇を照らす街路灯の光の反映などもリアルに捉えられていて、臨場感溢れる一枚です。

4枚目は《岡山のかねつき堂》です。(写真10)

写真10 岡山のかねつき堂

岡山と言えば「晴れの国」ですが、
巴水があえて雨の情景を選んだところに惹かれ、
岡山のある書店で巴水の展示即売会が開かれていた時に初摺りを購入しました。
購入時には10万円だったものが10年もすると27万円になっていて、
巴水人気が復活したことを実感したものです。
岡山のかねつき堂は江戸時代初期に創建された一種の時計台で、
時刻だけでなく火事の発生も知らせた鐘楼でした。
戦災で焼失してしまいましたが、
巴水は消失を惜しんで、以前に描いていたスケッチを元に昭和22年にこの絵を制作しました。
よく見るとかねつき堂の脇の道を、傘を差した人物が歩いています。

5枚目も岡山の雨を描いた《岡山内山下》(おかやまうちさんげ)です。(写真11)

写真11 岡山内山下

私も何回か行ったことのある林原美術館の入り口付近を舞台にしています。
そこに向かって蛇の目傘を差す二人の女性が画面の右手前から入ってきたところです。
その動きに従って私たちの視線は入口付近に佇むポンチョ姿の人物に導かれます。
その鮮やかな黄色がアクセントになっています。
このような構図作りが巴水は本当に巧みです。

三人目に取り上げるのは会津(あいづ)出身の木版画家・斎藤清です。
この作家を知ったのも美術の教科書作りの中ですから、
やはり教科書は良い作家を取り上げていると思います。
そして斎藤清と言えば『会津の冬』です。

1970年のシリーズ第1作から1997年に90歳で没するまで、
100作を超える作品群はまさに斎藤清のライフワークと言えるものです。
会津には有名な磐梯山(ばんだいさん)があり、
そこのスキー場にも附属横浜中のスキー教室で何度か行ったことがあるので、
会津の雪景色には馴染みがあります。
しかし斎藤清が版画でモチーフとしたものは、雪を被った民家の風景なのでだいぶ趣きが異なります。
大自然の雪景色と人里の生活感が感じられる雪景色の違いです。
今年の冬は大雪に見舞われた地域が多く、雪深い土地での生活がいかに大変かが良く分かりましたが、
その辺りも含めて斎藤清が表現したものは、
雪の温かさと美しさ、そしてそこに生きる人々のたくましさです。

作品を見て行きましょう。

1枚目は『会津の冬』シリーズ57作目の《猪苗代》(いなわしろ)です。(写真12)

写真12 猪苗代

民家の大屋根が分厚い雪で被われ、かすかにのぞく家の入り口辺りに日の丸の旗が掲げられています。
何かの祝日でしょうか。
傍には洗濯物も干されています。
その手前を、荷物を背負った行商人が重い足取りで通り過ぎようとしています。
人間の営みを感じさせるものはこれだけです。
自然と人間の何という圧倒的な対照でしょう。
全体は丸みのある曲線によってまとめられているので、優しさや温かさを感じられますが、
わずかに覗く民家の姿からは雪国の生活の厳しさが伝わってきます。

2枚目は71作目の《若松》(わかまつ)です。(写真13)

写真13 若松

雪で被われた家の一部をズームアップした構図なので、
まず目に入ってくるのが「う」という文字が書かれた垂れ幕です。
「う」の右下部に「えび」と読める文字も書かれているので、「う」は「うなぎ」の頭文字でしょうか。
描かれているのは鰻や海老の料理を出す店の入り口かもしれません。
店の前には雪かきされた雪が高く盛り上がっていますから、客を待っている様子です。
障子の格子や軒に連なるつららなどにも細かい配慮が感じられます。
白黒の世界に深みを与える障子の灰色、そして画面のアクセントとなっている垂れ幕の深い青、
色彩への配慮も絶妙です。

3枚目は75作目の《喜多方》(きたかた)です。(写真14)

写真14 喜多方

この作も《若松》と似た趣向です。
軒下に賭けられた青い暖簾には「旅」という文字が強調されていますから、
ここは旅の宿かもしれません。
「創業寛…」という文字も見えますから、
江戸時代初期の寛永年間や寛文年間に創業された老舗旅館でしょうか。
暖簾の横には大きなたらいのようなものが建てかけられ、ここにも雪が積もっています。
旅人の足を洗うたらいのシンボルでしょうか。
この作でも軒のつららがゆっくりとした時間の経緯を表しています。

4枚目は雪から離れ、『会津の家』シリーズGです。(写真15)

写真15 会津の家G

『会津の冬』があまりにも有名なので注目度は低いようですが、
『会津の家』にも名作はあります。
Gは会津のかやぶき大屋根の古民家を描いた1枚で、
玄関口とその周辺をトリミングして描いていて全貌が見えないため、
逆に家の大きさが強調されています。
大屋根が無限に続くような錯覚とともに、
あの雪の中にこんな姿が隠されていたのかという感慨も湧きます。
この絵は会津の家の肖像であるとともに、
そこで生きる人々の不屈の精神を表しているように私には見えます。

5枚目は斎藤清のオシャレな感覚が伝わってくる作品《競艶》(きょうえん)です。(写真16)

写真16 競艶

9匹の猫が様々なポーズで並んでいます。
背中を向けたり、間から覗き込んだり、寝そべっていたり。
注目は猫の体の木目模様です。
様々な木目をフロッタージュして作った模様を貼り合わせたように見えます。
フロッタージュも一種の版画技法ですから、決して奇策ではないのですが、
それを試みた斎藤のセンスが光る一作です。
この辺りに斎藤が海外でも高く評価された理由があるような気がします。

4人目に取り上げるのは絵本作家でイラストレーターの熊田千佳慕(くまだちかぼ)です。

絵本の時にも紹介しましたが、
70歳の時に『ボローニア国際絵本原画展』で初入選して注目された超遅咲きの作家で、
私とも親交があり、中学校の『美術』の教科書に取り上げたり、
私の著書『美との対話』で大きく紹介したり、
中学生や大学のゼミ生を大勢連れてお宅を訪問したこともありました。

「私は虫である」
「美しいから美しいのではなく、愛するから美しい」
などの名言も残しています。

絵の特徴は「見て見つめて見極める」という徹底した観察に基づく細密描写で、
「子どもに見せる絵に嘘があってはいけない」と言って、
毛先が3本だけ残る面相筆で長い時間をかけて描きました。
その一方で構図は大胆で、下から見上げる視点で主役の花や虫を強調しました。

私が中学生を連れて初めて訪れた頃はまだ広くは知られていなかったので、
クリアーファイルに収めた原画をじかに見せてくれたり、
街の図書館で開催した個展もまだ無料でしたが、
NHKが特集番組を放映したり、人気番組の『徹子の部屋』に出演したりしてからは、
展覧会も美術館で行われるようになり、多くのファンが会場に詰めかけるようになりました。

私が選んだ絵ハガキの1枚目は絵本『ファーブル昆虫記』の中の
《待ち伏せ・ウスバカマキリ》です。(写真17)

写真17 待ち伏せ カマキリ

カマキリが野に咲くアザミの一部に成りすまして、
花に寄ってくるミツバチを餌にしようと待ち構えている場面です。
両前足を胸の前で揃える独特のポーズは、わなを仕掛けているカマキリの祈りのようにも見えます。
地面から見上げたような構図で、緊張感のある自然界のドラマの予兆を見事に表現しています。

2枚目は同じく『ファーブル昆虫記』の中の《満身の力で・トネリコゼミ》です。(写真18)

写真18 満身の力で トネリコゼミ

タチジャコウソウという植物につかまって、満身の力で脱皮(羽化)している場面です。
セミの抜け殻はよく見ますが、
脱皮(羽化)は夕方から夜にかけて行われるので、その瞬間を見ることはなかなかできません。
しかも羽化するのに4時間もかかり、上手く羽化できない場合もあります。
ゼミが成虫になるのは大変なのです。

この絵は舞台を昼間の時間帯に変えて描いています。
その意図は自然界の神秘的な儀式を白日の下で多くの人に見てもらいたかったからではないでしょうか。
ただしこのような場面やセミの抜け殻を生理的に受け付けない人が居るのも事実です。
皆さんはどうですか?

3枚目は『日本の虫たち』の中の《青空に飛ぶ宝石・ナナホシテントウムシ》です。(写真19)

写真19 青空に飛ぶ宝石

ナナホシテントウムシがタンポポの花から飛び立った瞬間を描いています。
その姿は雄大で、まるでカブトムシのようです。
オレンジ色の地に7つの黒い水玉模様を付けたナナホシテントウムシは、
幸運の象徴として愛されています。
実際、人間にとって害虫のアブラムシを食べてくれるところから益虫とされてもいるようです。
そんな目で見るとこの絵のナナホシテントウムシは、
害虫を退治するために発進する勇者のようにも見えませんか。

4枚目も『日本の虫たち』の中の《レンゲの町》です。(写真20)

写真20 レンゲの町

レンゲの花に蜂や蝶が群がっている場面で、目立っているのは大きく羽を広げたクマバチです。
そして小さなレンゲの花がこれだけ大きく描かれると、
確かにあの大きな蓮の花に似ていることに気付きます。
小さなものを大きく描く手法はスケール操作と言い、
シュルレアリスムの絵画ではよく見られるものです。
熊田千佳慕の構図法にはシュルレアリスム絵画の影響があるように思えます。

この絵に描かれているのは色鮮やかな虫たちのパラダイスですが、
試みにこの絵を、濃度を濃くして白黒でコピーすると、
たちまち不気味な幻想的世界に転じるのです。(写真21)

写真21

5枚目は『うれしいな おかあさんといっしょ』の中の《日本のネコたち》です。(写真22)

写真22 日本のネコたち

熊田千佳慕と言えば虫ですが、動物を描いていた時期があります。
動物の絵の私の印象は「熊田さんらしくない」です。
同じ細密画法で描いているので、絵の密度は同じように高いのですが、
虫の絵ほど思い入れが感じられないのです。
やはり絵描きは自分が本当に描きたいものを見つけた時に描いた絵で輝くのです。
この猫の絵は構図も練られていないので、あまり想像力を掻き立てられません。
熊田千佳慕が遅咲きだったのにはやはり理由があるのです。
虫と出会い、虫を描いているうちに

「私は虫である」

と言えるほどまでに虫と同化できた時、彼は真の画家になったのだと思います。

Share / Subscribe
Facebook Likes
Tweets
Hatena Bookmarks
Pinterest
Send to LINE