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第82回『 マイ・コレクション/ 動物根付の世界 その1 根付との出会い ~龍・ヒツジ・ねずみ~』

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2月がやってきました。

馬年ですから今年は例年以上に駆け足で1年が過ぎていきそうな気がします。
そんな時は私のブログでも読んで、しばし現実の忙しさを忘れてください。

新しいテーマは「動物根付」です。

根付とは何かをご存じない方もいると思いますので、簡単に根付の紹介をしておきます。

根付は江戸時代に身分の違いを超えて大流行した男性用のアクセサリーです。江戸時代の服装は着物ですから帯を締めます。その帯に印籠や巾着(財布)、煙草入れなどの提げ物を紐で吊るすのですが、紐だけでは抜け落ちてしまいます。そこで紐の先に付けるストッパーとして考案されたのが根付です。提げ物が落ちないように帯に引っかかればいいので、サイズは小さくていいわけです。

また機能だけを考えるのなら帯を通しやすい球形や卵型でも事足りますが、江戸時代の人は粋でお洒落で生活を楽しむのが好きですから、そこに様々なアイディアを凝らしました。私が集めている動物はもちろんのこと、故事や昔話にちなんだ人物やキャラクター、食材や器物などもモチーフになりました。

結果として大きさは3~5㎝程度となり、材質は木製や象牙製の小さな彫刻が誕生したのです。手の平に乗るサイズから根付は「掌(たなごころ)の芸術」とか「手の平の小宇宙」とか呼ばれて親しまれると同時にどんどん技巧が進化し、彫り物としての精度や密度の高さ、斬新な発想を誇る逸品が造られるようになって行きました。

ちなみに根付は置物ではありませんから、360度どの方向からも鑑賞できます。そして底の面に紐を通すための穴が二つ空いています。根付が流行ると自分のものを人に見せて自慢したり、人のものを見たくなったりします。そこで根付の品評会や交換会が催されたそうで、そこには身分の違いを超えて趣味を同じくする武士や商人、庶民などが集ったと言われています。現代の男性用アクセサリーで根付に相当するものはありませんが、強いて言えばキー・ホルダーや私が集めていた変わったデザインのネクタイピンなどは、大きさやアイディアなどかなり近いものと言えるのではないでしょうか。

江戸時代に造られたものを「古根付」といい、今造られているものは「現代根付」と言って区別しています。古根付は実際に使われて、たくさん手で触られていたものなので「なれ」という表面が丸く削られる現象が特徴で、これが古根付の「味」なのです。一方現代根付は使うものではなく、ほとんど高級美術品と化しています。どちらも目の玉が飛び出るくらいの高い値で取引されていて、とても私のようなものが手を出せる代物ではありません。では私がコレクションしている根付は何かというと、中国製の安価な根付なのです。これが日本に輸入されて神社などの参道にある土産物屋や街の古美術商、ネットの通販で売られているのです。

20年くらい前ですが、毎年参拝する最上稲荷の参道で寄った馴染みの土産物屋で初めて根付に出会いました。まずはその小ささに興味を持ちました。次に精巧な彫りの技巧に目を見張りました。私は欲しくなったので、自分に関係の深い動物である龍と羊を手に取って値段を聞いてみると、店の女将が「ひとつ3500円」というので迷いました。この時は本物の根付の値段を知りませんでしたから、正直大きさに比べて高いと思いました。しかし私は油絵で切手サイズのミニアチュールを描いたこともあるので、小さい作品の意義や価値は知っているつもりです。

少し考えてから買う価値があると判断して二つとも買いました。(写真1)

写真1

リアルさとユーモラスなデフォルメが同居した不思議な造形です。

龍の底の部分を見ると足裏までちゃんと彫ってあります。(写真2~4)

写真2
写真3
写真4

羊も同様です。(写真5~7)

写真5
写真6
写真7

しかしどちらにも紐を通す穴が空いていません。この二つは彫刻としての魅力は十分ですが、根付ではなかったのです。
ただ私は彫りのクォリティと全体的なセンスに惹かれたので、これはこれでよしとしました。龍も羊も私にとっては「お守り」のようなものですから。

翌年から仕切り直しです。
根付の勉強もして、私が集めるのは中国製の安物だと知ったうえで蒐集活動を始めました。たくさん中国製の根付を見ている内にあることに気付きました。ひとつは大きさの問題です。

少し大きめの根付は間延びして緊張感がないのです。逆に極端に小さい根付は存在感が乏しく魅力に欠けます。3.5㎝前後がやはり収まりがいいのです。

もうひとつはたくさん見ている内に、作者が見分けられるようになりました。やはりポーズのセンスや彫りの癖は隠せないもので、作品から滲み出ます。それを見分けて私が気に入った数人の作者のものと思われるものだけを蒐集しました。

いつしかその作者たちにリスペクトの気持ちを抱くようになりました。おそらく現地では安い報酬で制作に取り組んでいることが想像されますが、決して手を抜かず、楽しんで造っていることが伝わってくるからです。いつか叶うなら作者に会ってみたいとも思いました。

さてそれでは私のコレクションを順に紹介していきましょう。
まずは蒐集し始めてしばらく経ってから古美術商で手に入れた印籠と根付のセットです。(写真8)

写真8

これが本来の根付の在り様です。つまりあくまで根付は脇役なのですが、それが主役の印籠を差し置いて大流行してしまうところに世の中の面白さがあります。

印籠の表と裏には浮彫の技法で龍が微細に彫られています。(写真9.10)

写真9
写真10

根付の方はというとやはり龍の彫り物です。(写真11~13)

写真12
写真11
写真13

龍の根付はたくさん集めましたからいずれまとめて紹介しますが、異常に細長い体を丸く表すのにそれぞれの作者が色々と工夫しています。この根付も丸めた体から首をちょこんと出しています。

材質は木製で種類は細工物に適している柘植(つげ)と思われます。柘植の本来の色は黄色ですが、それでは重みがないので表面に着色しているのです。私が集めた動物根付の大半は柘植製です。

その柘植から生まれた動物根付の佳品としてネズミから紹介しましょう。
ネズミは体自体が丸みを帯びているので、根付のモデルとして最適なモチーフのひとつです。

最初は果実の入った籠を抱えて仰ぎ見るネズミです。(写真14~17)

写真14
写真15
写真16
写真17

実に滑らかな表現で生き生きとした表情をしています。果実を独占できた幸福感が滲み出ているようです。どの角度から見ても魅力的で、作者の力量の高さが窺えます。少し前に出している右前足が効いています。

二つ目はネズミ根付の定番「丸ネズミ」の一種です。

「丸ネズミ」とは徹底的に全身を丸く表したネズミ根付のことです。(写真18~21)

写真18
写真19
写真20
写真21

自分の丸めた尻尾の上に乗ったポーズで、何処から見ても丸さが強調されています。じっとかがんだままの姿勢で気づかれないように息をひそめているのでしょうか。すべすべした背中を思わず触りたくなります。

三つ目は典型的な「丸ネズミ」の根付です。(写真22~27)

写真22
写真23
写真24
写真25
写真26
写真27

二つ目のものに比べると頭部がデフォルメされています。4本の足のポーズも複雑で、鼻を軽く押さえているのは右後ろ脚です。尻尾も背中に巻き付いています。

「丸ネズミ」は見た目の形状も機能性も「究極の根付」と言っていいスグレモノなのです。底の穴の付近にはサインのようなものも見えます。有名な古根付のコピーだと思われますが、全般的に古根付にはえぐいものが多く、それらを少し苦手にしている私には、体毛が表現されていないすべすべの中国製根付のネズミの方が好みに合っているのです。

1回目の紹介はここまでですが、最後に根付の大きさが分かりやすいように撮った写真をお見せします。(写真28)

写真28

比較対象は年賀はがき(10×15㎝)とウルトラマンの指人形です。年賀はがきよりもはるかに小さく、ウルトラマンの指人形とほぼ同じ大きさであることが分かっていただけるでしょう。根付はこんなに小さい彫刻なのです。次回はウシ、トラ、ウサギを取り上げる予定です。お楽しみに!

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