
第86回『 マイ・コレクション/ 動物根付の世界 その5 空想上の動物たち~ 獅子、麒麟、その他』
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6月になってしまいました。
こんな言い方をするのは11月の個展に向けての絵の制作が少し遅れ気味だからです。
やはり『陽のあたる岡』の第15回記念展の実施と二人の講師接待の準備などに追われて、4月と5月は絵に集中できませんでした。しかし『陽のあたる岡』は盛会で、来場者の方々の反応や評価もよく、来場者数も目標の700名には届きませんでしたが、668名とまずまずでした。
何よりも良かったのは講師による講評会と講師を囲んでの懇親会がとても盛り上がったことです。
岡山からは東京展初日に開催される平日のギャラリートークや懇親会に参加することは難しいので、今回はメンバーにとっても貴重な機会でした。何しろ一陽展の図録を開けば最初のページに登場する濱田、舘野のツートップの運営委員が熱心に絵に関する色々な話をしてくれるのですから、こんな贅沢な時間はありません。
二人とも中学校や高校の美術教師を続けてきた方たちなので、教員が多い『陽のあたる岡』のメンバーには、今後実となる話がたくさん聴けたのではないかと思います。二人は16日に講評会と懇親会をこなし、17日は笠岡の法華寺の天井画と総社の我が家のギャラリー見学をしました。二人とも今回の旅のもう一つの目的はこれだと言っていた通り、天井画もギャラリーもとても楽しんでくれました。
5年前の第10回記念展の時はコロナ禍で、予定していた舘野先生の招聘を直前で断念した経緯があっただけに、今回二人の岡山招聘が実現したことは、私の長年の夢が叶った思いでした。色々な意味で収穫の多かった記念展を経て、メンバーがどのように変容するのかを今後見守っていきたいと思います。
また5月下旬になってようやく新しい大作の構図も決まりましたので、これからの3か月間は大作に集中して完成させたいと思います。
さて、動物根付の紹介も5回目となり、今回は空想上の動物として獅子や麒麟を取り上げます。
そして正体の分からない動物や、シュールな動物?も登場します。
私は空想上の動物が大好きです。空想上の動物と言えば龍、鳳凰、獅子、麒麟、ペガサス、ドラゴン、ユニコーンなどがあります。それぞれ色々な物語とともに私たちの記憶の中で生きています。誰も姿を見たことがないという点では恐竜も仲間に入れてもいいかもしれません。
この中で私が一番好きなのは龍ですが、これは次回に取っておくとして、今回は獅子や麒麟の根付を紹介します。
最初は獅子です。
獅子は現存の動物ではライオンに当たりますが、獅子舞や神社の狛犬に見られるどこか愛嬌のある容貌からも、邪気を払い、厄災を避ける霊獣というイメージが強いので、やはり空想上の動物と考えた方がしっくりきます。沖縄のシーサーも獅子の仲間です。
獅子はイノシシと同じように頭の大きい動物ですから、根付にはしやすいと思います。最初の獅子は天に向かって吠えています。(写真1~5)
四肢を踏ん張り、見上げた目は輝いています。装飾的な長い髪と尻尾が霊獣らしさを感じさせます。正面から見るとがっしりとした顎と大きな口が印象的です。表情は獅子舞の顔を思いださせます。
二つ目は宝珠を抱えた姿です。(写真6~9)
宝珠は仏教由来のモチーフで、 民衆の様々な願い(冨への願望、衣食住に関する願望、厄災や病苦から逃れる願望など)を叶えてくれる仏の功徳の象徴です。それを守っているのが霊獣の獅子というわけです。この獅子が抱えている宝珠には三つ巴の印が付いていて、渦を巻いた文様からは充満したエネルギーが感じられます。後ろ足で立ち、前足で宝珠を抱えるその姿は勇壮な雰囲気を醸し出しています。カっと目を見開いた横顔にも威厳があります。後ろから見ると左回りの強い動勢を持った像であることがよく分かります。カールした尻尾がチャーミングでしょう。さらに下から見上げるとよりダイナミックな造形の印象が強まります。
三つ目の獅子は宝珠を丸抱えしています。(写真10~14)
宝珠がよほど大事なものだということがよく分かるポーズです。口は空いていますが、威嚇するような怖さはありません。表情も穏やかです。ところでこの獅子、鬣(たてがみ)が背中から尾までつながっているので豪華な感じがしませんか?
四つ目の獅子はちょっとした仕掛けがあります。(写真15~19)
頭部はほとんど獅子舞のイメージで、小さめの宝珠を抱えた立ち姿です。突出した部分が全くないので、根付として使うのには最適です。この獅子の口の中をよく見て下さい。小さな球が入っているのが分かるでしょうか。実はこの球、口の中で動くんです。顔のアップの写真2枚を見て下さい。(写真18,19)


球が見えたり、隠れたりしています。つまりこの球は根付の口の中で転がるように細工したもので、その超絶技巧には驚きです。
次は麒麟(きりん)です。
麒麟は動物のキリンとは関係ありません。麒麟は古代中国で聖人の出現や太平の世の到来を告げるとされた想像上の霊獣で、その姿は日本ではキリンビールのマークでよく知られているところです。シカに似た体と龍に似た顔、頭部に角を持つ仁徳の象徴の動物です。麒麟のイメージは大変良く、「麒麟児」という言葉があります。麒麟の子という意味ですが、才知・技芸に特に優れた若者や神童を指す言葉です。
では根付ではどう表現されているのでしょう。私が出会ったたった一つの麒麟の根付を紹介しましょう。(写真20~24)
天に向かって口を開け、何かアピールしているような姿です。正面から見る角度では、その生き生きとした顔の表情がよく伝わってきます。体全体のバランスもよく、ディテールもしっかり彫られているので、霊獣としての風格もあります。しかし表情が穏やかなので、同時に親しみやすさも感じさせます。この辺りが龍と異なるところかもしれません。麒麟の根付の仲間があるのなら見たいものです。
さていよいよ正体不明の「謎の根付」の出番です。
珠を抱えた動物ですが、現存動物では当てはまるものはいないので、やはり想像上の霊獣でしょう。(写真25~29)
しかし霊獣で調べてもなかなか該当するものが出てきません。難波道具店の主人に調べてもらったところでは「珠抱え獅子」の一種ではないかということでしたが、顔が獅子のようにいかつくないので、違う気がします。
とにかく全体に丸みを帯びて優しい感じがします。表情も実に穏やかです。この表情に惹かれて購入しました。角は2本で長い頭髪が二つに分かれています。下からの角度で見ると、手や足の先が鳥のようになっているのが分かります。どなたかこの動物が何者であるかが分かっていたら、ぜひご一報ください。
今回の最後は何とも奇妙な動物?です。
まずは写真を見て下さい。何に見えますか?ウサギでしょうか。大きな耳のようなものがありますから。(写真30)
ところが重心を変えると今度はトリのように見えます。長い耳は大きなくちばしに変わりました。(写真31)
向きを変えても同じことが起こります。(写真32、33)
これは私もよくやるダブルイメージの立体ヴァージョンなのです。「Aであると同時にBでもある」という両義的な造形です。まさか根付でシュルレアリスムの手法に出会うとは思いもしませんでした。
ポイントは接地面にあります。重心を変えることでこの部分が足になったり、尻尾になったりするのです。(写真34)
最後にもう一度、違う角度からのウサギとトリをお楽しみください。(写真35、36)
次回はいよいよ龍の根付のオンパレードです。


































