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第87回『 マイ・コレクション 動物根付の世界 その6 空想上の動物たち 龍①』

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2026年も早くも折り返し。

なんと7月です。早すぎます!

早すぎると言えば。6月の始めにもう台風がやってきました。
幸い大きな被害は出ずに済みましたが、それでも新幹線の運行に影響が出る心配もありましたから、2日と3日に予定されていた私の大学の授業は念のため休講にしました。
梅雨の方も今のところは穏やかな感じですが、雨が降って晴れると雑草が伸びるので、いよいよ草刈りに追われる季節になっています。
先日は草が思うように刈れず苦戦したので、まだ交換時期ではなかったのですが、新しい刃に変えたら面白いように刈れて、草刈りがはかどりました。
この作業、使うガソリンの燃費の関係で1回1時間ほどです。それを昨年は23回やりました。
今年はここまで11回です。最終的に何回になるのやら。 

さて動物根付の美術の散歩道も6回目、今回はいよいよ龍の登場です。
私は辰年生まれなので、龍には特別な感情を持っています。十二支の中で唯一の空想上の動物ということで、私が子どもの頃から空想癖が強いのはそのせいなのかとか、天翔ける龍のように自分も美術界で思う存分活躍したいとか、龍という目に見えない存在を意識することはよくあります。好きなのは「登竜門」の話で、元気のいい若鯉が滝を登って龍に化けるという出世物語です。そしてこの話には続きがあって、中国の伝説ではその龍がやがて鳳凰になって不老不死の存在になるというのです。これらは龍が空想上の動物だからこそ成り立つ話で、東洋では龍が縁起の良いもの、人間に幸をもたらすものとして捉えられている証です。
ところが西洋では龍はドラゴンと呼ばれ、体形も大型肉食恐竜のようで大きな翼を持ち、人間に厄災をもたらす存在という位置づけです。神話でも美女を人質にした悪役のドラゴンを正義の騎士が退治する話には事欠きません。所変われば龍のイメージも180度異なるのです。
ちなみに映画『ゴジラ』に登場した人気怪獣のキングギドラは西洋のドラゴンと東洋の龍を合成したようなデザインになっています。翼だけでなく龍の頭が三つもあるというなんとも贅沢な怪獣です。そんな龍について詳しく学べる奇書を2冊紹介します。(写真1)

写真1

どちらも書店で偶然見つけ、面白そうなので購入した本です。「奇書」と書いたのは現実には存在しない龍をあたかも存在するかのように記述し、精密な図解を使って紹介しているからです。装丁も奇書にふさわしいものです。

ひとつは『ドラゴン学総覧』。(写真2)

写真2

「総覧」と言うだけあってドラゴンの種類や生態、生息地、習性だけでなく、ドラゴンとのつき合い方まで詳しく載っています。

もうひとつは『ドラゴン学入門』。(写真3)

写真3

「初級ドラゴン学」「中級ドラゴン学」「上級ドラゴン学」の三部構成で、「初級」では西洋のドラゴンを、「中級」では東洋のドラゴンを、「上級」ではオーストラリアのドラゴンを扱っています。こちらも見応えのあるイラストが魅力で、改めて龍は絵になるな、美しいなと思う次第です。それでは動物根付の龍、つまり彫刻ではどのように造形されているのでしょうか。

最初は同じポーズですが色違いの根付を紹介します。(写真4)

写真4

左側の根付は材質の柘植の黄色に暗褐色の彩色が施されていますが、右側の根付は赤褐色の色調です。これは好みの問題ですが、龍の根付に関して言えば私の好みは暗褐色の方です。大きな動物では暗褐色の方がより重みや深みが感じられるからかもしれません。ですからこの後登場する龍の根付の多くは暗褐色の色調のものです。

一つ目の龍は水平状態で体を丸めた姿です。(写真5~8)

写真5
写真6
写真7
写真8

「龍頭蛇尾」という言葉があるように、龍の意匠の大半は頭部の表現に掛かっています。これは頭部を大きく造る傾向のある動物根付の世界に龍はモチーフとして適しているということです。極端に言えば頭部と胴体と尻尾がそれぞれ三分の一ずつという割合です。根付なのでさすがに角は控えめですが、顔はしっかり彫られています。それから胴体の鱗もきれいですね。

二つ目の龍も体を丸めていますが、こちらは立体的に立ち上がっています。(写真9~12)

写真9
写真10
写真11
写真12

頭部は下にあって体全体の安定性を保っています。龍の体を輪にすることで内部空間が生まれ、彫刻としての魅力が増しています。しっかりした四肢も胴体の一部と接するようになっていて、構造上の強さを生み出しています。これらからこの根付のデザインはかなり考えられたものであることがわかります。

三つ目の龍には抽象的で有機的な形をしたものがまとわりついています。(写真13~17)

写真13
写真14
写真15
写真16
写真17

皆さんはこれを何だと思いますか?私も最初はこれが何なのか分かりませんでした。分かったきっかけは俵屋宗達の《雲龍図》屏風を見たことです。嵐を呼ぶ龍は雲の合間から姿を現すのです。おそらくこの抽象的で有機的な形をしたものは雲でしょう。龍につきものの雲を組み合わせることで龍の生態を伝えているのです。それにしてもこの龍の頭部はよくできています。豊かなたてがみと立派な髭が印象的です。底を見ると雲の中に「友一」という字が彫ってあります。この根付の作者は日本人なのでしょうか。

四つ目の龍は私が特に気に入っているものです。(写真18~22)

写真18
写真19
写真20
写真21
写真22

ただしそれは彫刻としての評価で、根付として使うのは心配な一品です。ご覧の通り勇壮な姿です。頭部は上にあり、体全体が複雑にひねられて、豊かな動勢が感じられます。とりわけ斜め上に伸び上がる胴体とそこから急角度に折り曲げられた首と頭部が生む動勢は見事です!こんな小さな根付に龍の無限の生命力が宿っていることに驚きを隠せません。頭部が左に向いた角度(写真18)と右に向いた角度(写真20)を比べると、像の印象がガラッと変わるのも面白いところです。

写真18
写真20

また長いあごひげと大きな尻尾を上手く胴体に付けて、構造上の強さを保っている点も見逃せません。とは言うもののやはり根付として使うのはためらわれる造形です。

五つ目の龍はちょっと変わっています。(写真23~26)

写真23
写真24
写真25
写真26

何やら丸いものの二つの穴から龍が頭と尻尾を出しています。この丸いものは何だと思いますか?よく見ると下げられるようになっていて、二つの穴は中央の溝上にあります。おそらくこれは魔除けの土鈴でしょう。土鈴には小さな珠が入っていて、土鈴を振るとその珠が周囲の壁に当たって反響し音が出る仕組みになっていますから、龍は求めていた珠が土鈴の中にあると知り、それを手に入れようと土鈴の中に入り込んだのではないでしょうか。この根付の作者は龍と土鈴を組み合わせることで物語性をまとわせるとともに、構造的にも根付としての使用に耐えうる造形に成功したと言えるでしょう。

六つ目の龍は大変複雑なポーズで、それだけ見どころが多い根付です。(写真27~32)

写真27
写真28
写真29
写真30
写真31
写真32

まずは六つの角度からの写真で、この根付の魅力をじっくりと味わってください。胴体から尻尾にかけて三重にとぐろを巻いています。頭部と尻尾を胴体に密着させることで構造的な強さを保っています。左前足を一歩踏み出し、前方に向かって激しく威嚇している感じです。頭部はたてがみや髭、歯などが精巧に彫られていて迫力があります。このようにこの根付は360度の全方位からの鑑賞に耐え得る造形になっていることがわかります。

以上、今回は六つ紹介しましたが龍の根付はまだまだあります。次回もお楽しみに!

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